6年前

 

わたしは友人を亡くした。

 

 

彼は、

 

納豆屋さんの4代目だった。

 

 

ちいさな

 

納豆屋さん。

 

 

しかし

 

彼のつくる納豆は、

 

どんな大手メーカーのつくる納豆よりも

 

最高においしかった。

 

 

人生の中でいただいた納豆のなかで

 

一番おいしい納豆だった。

 

その順番は

 

今も変わらない。

 

 

しかし

 

彼は

 

もういない。

 

 

 

 

彼と

 

最期に話をしたのは

 

電話だった。

 

 

 

わたしは

 

東日本大震災によって

 

生活の場が

 

東北から中部に移った。

 

 

それ以降

 

彼とは、

 

もっぱら電話だった。

 

 

 

あるとき

 

義理のお母さんが

 

わたしが納豆好きなのを知っており

 

中部圏では手に入らない

 

彼のつくる納豆を宅急便で送ってくれた。

 

 

食べた瞬間

 

味が落ちたなと感じた。

 

 

心配で

 

彼に電話を入れた。

 

 

 

彼とは

 

若いころ

 

日本一の納豆屋さんめぐりの旅によく出かけた。

 

全国納豆品評会で、

 

一等賞をとった納豆が新潟にあると聞けば

 

たった

 

ひとつの納豆を買うためだけに

 

新潟に行った。

 

 

日本一をとった納豆を食べても、

 

わたしは

 

彼のつくる納豆のほうが、

 

おいしいと思った。

 

 

 

わたしは彼に聞いた?

 

賞を取る納豆と、

 

本当においしい納豆とは違うのでは。

 

 

賞なんか

 

とれなくても

 

お客さんに喜ばれる

 

おいしい納豆を作り続けていれば、それでいいじゃん。

 

 

なぐさめではなく

 

本当にそう思った。

 

 

しかし、

 

彼は、

 

賞を取ることに、強い信念を持っていた。

 

 

”賞さえ取れば

 

 大勢の人の目に留まる。

 

  自分のつくる納豆を知ってもらえる。”

 

 

彼の口癖だった。

 

 

彼は、電話のおわりに、

 

”もうすこしだけ納豆をつくらせてください。”と、おかしな話し方をした。

 

 

その時、異変に気付くべきだった。

 

 

わたしは、

 

”納豆屋さんが、納豆を作るのは、当たり前じゃん。なに、言っているの。がんばれよ。” と、こたえてしまった。

 

 

 

しばらくして

 

義理のお母さんから

 

納豆屋さん、

 

なくなってしまって、

 

お店は、廃業してしまったと教えてくれた。

 

 

 

お義母さんも、

 

納豆屋さんが、なくなった理由は分からなかった。

 

 

わたしも、

 

怖くて、

 

それ以上、理由は聞けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

先日、

 

うちの会社に、

 

全国納豆品評会で

 

3年連続日本一を受賞された納豆屋さんの社長がいらっしゃり話を聞くことが出来た。

 

 

亡くなった

 

彼が、

 

生前、

 

どうしても取りたかった賞を、

 

3年も連続で受賞された方だった。

 

 

一見すると

 

豪放磊落な方のようにみえたが、

 

話をすると

 

とてもセンシティブな方だった。

 

 

うちの社長に、

 

とても感謝しているとの話があった。

 

 

感謝???

 

 

 

 

納豆屋さんの社長は、

 

 

まだ、

 

若いころ

 

納豆がうまく作れなかった。

 

 

父親から

 

毎日、失敗し、叱られる毎日だった。

 

 

 

うちの社長のところに来ては、

 

自信のない納豆を、食べてもらっていた。

 

 

納豆を、

 

もってくると、

 

うちの社長は、

 

”うまい、うまいと言って食べてくれた。”

 

 

 

それが

 

当時

 

とても自信になり、今がある。と教えてくれた。

 

 

 

そして

 

納豆屋さんの社長は、

 

4回目の納豆品評会で

 

日本一は目指さない。と、きっぱり話をしていた。

 

 

 

理由を尋ねると

 

 

今度は、

 

自分が受けた恩を、

 

返す番だから と教えてくれた。

 

 

恩。。。返す番。???

 

 

地元の若い農家のつくる大豆をつかって、今度は納豆を作るんだ。

 

そして

 

若い農家が、ちゃんと生活できるようにするんだ。

 

 

そのほうが

 

4回目の賞を取ることより、価値がある。

 

恩送りだよ。

 

笑顔が力強かった。

 

 

 

 

日本一を三度も受賞した納豆屋さんから

 

うちの社長が、

 

うまくない納豆を、うまい うまいと言って食べた話を聞き 大変驚く。

 

 

 

なぜなら

 

うちの社長は、日々

 

おまえが、どんなにいい企画を出してきても、最初はノーだ。と言われれているからだ。

 

入社以来、

 

罵詈雑言の数々(笑)

 

 

 

わたしは

 

友人だった

 

納豆屋さんと、

 

最期に電話で話した場面を思い出していた。

 

 

 

わたしは

 

彼に、

 

彼のつくる納豆の味が落ちたことを正直に伝えてしまった。

 

昔のような後味の良さが無くなってしまっている。と伝えた。

 

製造工程を聞くと

 

大豆を仕込む水を、天然水から、水道水に変えたとの話だった。

 

むかし

 

彼は、

 

おいしい納豆を作るために、労力を惜しまず、わざわざ地元の有名な湧水を汲んできて

 

その水で大豆を煮て、

 

納豆を作っていた。

 

当時、わたしは、そこまでやる必要はないのではないかと、彼にいった。

 

 

彼はおこり、

 

水がいかに大切かを、わたしに教えるために

 

水汲みに同行させられた。

 

 

いっしょに湧き水を汲みに行き、

 

その時、

 

本物の水を知った。

 

 

その水で淹れた

 

コーヒーは、

 

いままで味わったことの無い極上の味に変わっていた。

 

コーヒーは、

 

豆やグラインダーの性能以上に、

 

水の影響が大きいと知った。

 

 

 

 

 

なくなった彼は、

 

真面目な男だった。

 

 

当時、

 

彼は相当、疲れていたのだと、今ならわかる。

 

 

 

正直に話すより

 

もっと、言い方があったのではないか。

 

 

後悔しかない。

 

 

 

 

家に帰ると

 

9歳のむすめがテレビにむかって怒っていた。

 

 

テレビの内容は、

 

女性の生きにくさについての話。

 

様々な女性の声が流れていた。

 

 

”ミーティングで、活発に発言すると、女子は、そんなにガンガン前に出ないほうが良い。”

 

”野球が好きだけど、野球は、男のスポーツだから、やめたほうが良い。”

 

”女の子は、ズボンより、スカートをはいた方が良い。”

 

などなど、

 

女性は、男性に比べると、たくさんのストレスを感じているという内容の話だった。

 

 

わたしは、

 

女の人は大変だね~と、9歳のむすめに話をすると、

 

 

むすめ

 

”他人の話は、どうでもいいじゃない。

 

 自分が何をやりたいか。ただ やればいいのよ。

 

 出来ないから、言い訳しているだけよ。” (バッサリ)

 

 

はぁ~びっくり

 

 

私のまわりには、

 

立派な人が多い。

 

ありがたい。

 

 

紫陽花