26日、第96回春のセンバツ高校野球大会の出場校32校が発表されました。大会連覇を目指す山梨学院や、能登半島地震で大きな被害を受けた石川県輪島市に学校がある日本航空石川などが選ばれました。困難な状況を克服して、好成績を残したチームなどが対象となる「21世紀枠」には北海道の別海と、和歌山の田辺の2校が選ばれました。

 

特に能登半島地震で被災し、現在系列校の日本航空高山梨キャンパスに避難している日本航空石川にとっては複雑な心境でしょう。それを表すようにセンバツの出場決定報告の際、校名を呼ばれても顔を上げた程度と喜びの表現は控えめ、被災地の苦境を思ってか涙ぐむ選手もいた姿が印象的でした。大会本番まで厳しい環境での調整が続きますが、何とか大会本番まで、ベストに近い調整を行って欲しいものです。

 

そんなセンバツ、私の地元岡山からは創志学園が7年ぶり4回目の出場を果たしました。創志学園がこのタイミングで出場するのも何か不思議な縁を感じます。2011年の東日本大震災直後に行われた第83回のセンバツ、創志学園はその大会に野球部創設わずか1年で出場を果たしたということで、当時大きな話題を呼びました。メンバーは全員1年生、そんな中で見せた彼らの甲子園での爽やかな戦いぶりは、私も現地で観戦しましたが、今でも私の脳裏に深く焼き付いています。

 

しかし、その試合ぶり以上に話題を呼んだのが、当時のチーム主将野山くんの選手宣誓でした。そんな当時の選手宣誓の全文がこちら

 

「宣誓、私たちは16年前、阪神淡路大震災の年に生まれました。今、東日本大震災で多くの尊い命が奪われ、私たちの心は悲しみでいっぱいです。被災地ではすべての方々が一丸となり、仲間とともに頑張っておられます。人は、仲間に支えられることで大きな困難を乗り越えることができると信じています。私たちに今できること。それはこの大会を精いっぱい元気を出して戦うことです。「がんばろう、日本。」生かされている命に感謝し、全身全霊で正々堂々とプレーすることを誓います。」

 

今もユーチューブに当時の動画あがっているのでぜひ見て欲しいのですが、その語り口調、声のトーンといい、とても気持ちのこもった選手宣誓で多くの人達の胸に響くものでした。

 

そんな東日本大震災直後に初出場した創志学園が、また奇しくも能登で大地震のあった年のセンバツに、再び甲子園に戻ってくることになるなんて…。何か不思議な縁を感じてしまう私です。

 

今大会の創志学園にはもうひとつ大きな注目を浴びる要素があります。それが22年8月より初代監督の長澤監督からそのバトンを引き継いだ新監督、門馬敬治監督の存在。門馬監督は高校野球ファンなら誰も一度は聞いたことであろう、あの神奈川の名門、東海大相模を春夏合わせて4度全国制覇に導いた高校野球界きっての名将です。

 

門馬監督は体調不良を理由に21年夏をもって東海大相模の監督を退任しましたが、その後創志学園の理事長より熱心な勧誘があり、その熱意に心を動かされ、再び現場に戻る決意をされたそうです。それもその新天地の場が、縁もゆかりもない岡山であったことが、当時高校野球ファンもですが、何より地元岡山の人たちが一番驚いたビックニュースでした。

 

そんな門馬監督に率いられた創志学園、就任直後の夏こそ初戦敗退の憂き目にあいましたが、その後の秋季大会では見事な戦いぶりをみせ、中国大会では見事準優勝を果たし(決勝でも広陵に接戦1-2での敗戦)、堂々7年ぶりのセンバツ切符を手にしました。

 

最近岡山の出場校は昨夏こそおかやま山陽が久しぶりのベスト8まで勝ち上がりましたが、甲子園で勝てない時期が続いています。それだけに外部から新しい風を吹き込んでくれる門馬監督の存在は、岡山の高校野球界にとっても大きな刺激となってくれることでしょう。東海大時代の恩師原貢氏を師と仰ぐ門馬監督、東海大相模で培われた攻撃型野球「アグレッシブベースボール」の創志版をぜひ甲子園でも展開してもらいたいもんですね。

 

しかし、アグレッシブ(攻撃型)とはいいつつも、打撃面に関しては今大会からは大きな変化も起こりそうです。それは今大会から導入され飛ばないバットの導入。重大事故防止の観点から導入される新基準のバットは、最大直径がこれまでの67ミリ未満から64ミリとなり、打球部の素材が3ミリから4ミリ以上となるそうです。この変更により打球速度が6.3キロ低下し、飛距離も10メートル減るとも言われています。それだけでにこれまでのような打ち合いの打撃戦は間違いなく減るだろう(これまでのような一発長打よりも野手の間を抜く打球が大切になる)とも言われています。それだけにこれまでの大会以上に投手を中心とした守りが重要となってくるのは間違いないでしょう。

 

この新基準のバットへの対応はどこの高校もまだ思考錯誤しているようですね。何より価格がこれまでの金属バットより1万円ぐらい高いそうで、特に部費が潤沢にない公立校にとっては厳しい出費となるそうで…。でもだからといって、資金が潤沢にある私立が有利に働くかというと、物事そんな単純なものではありません。むしろこの新基準への変更は公立に有利に働く側面もありそうです。

 

その理由は、打球が飛ばなくなる分、今後は間違いなく接戦の試合が増えるから。接戦が増えるということは、これまでのように私立の強豪校が公立校をパワーで押し切るといった試合が減ることを意味し、これまでの大会以上に終盤までどちらが勝つかわからない試合展開となることが予想されます。今の高校野球は延長10回からのタイブレークですから、公立でも終盤まで接戦に持ち込めば、十分私立強豪を倒せる展開に持ち込むことができるというわけです。だからこそ、この新基準バット導入は公立校にとっては逆にチャンスともとらえることができ、今大会大物食いの試合も数多く見られるかもしれませんね。

 

また21世紀枠は今大会から枠が3から2に変更となりました。そんな21世紀枠から選出された別海(北海道)、田辺(和歌山)の戦いぶりにも注目したいですね。別海は部員19人(そのうち選手16人)の少数精鋭軍団、北海道大会ベスト4(優勝した北海に終盤まで接戦を演じての敗戦)での選出、田辺はあの智弁和歌山、市立和歌山を破っての県大会準優勝からの近畿大会出場実績(1回戦で近畿大会準優勝の京都国際に敗戦も10回タイブレークの接戦を演じる)が評価されての選出となります。どちらも21世紀枠での選出ですが、力的には備わっているだけに、甲子園でどんな試合を見せてくれるかとても楽しみです。個人的には田辺は95年の夏の甲子園に初出場した際に、リアルで見ていた世代なので、とても懐かしい思いがしましたね。

 

その他にも神宮大会を制しながら、同じく被災した星稜にも頑張って欲しいですね。近畿大会3連覇の大阪桐蔭、好投手小川くんを擁する作新学院、センバツ連覇を目指す山梨学院や地元兵庫の報徳学園の戦いぶりにも注目してます。


そんな見どころ満載のセンバツは3月18日から聖地阪神甲子園球場で開幕します。センバツの出場校が決定すると、いよいよ球春だなって感じがして、ワクワクしてきますね。

 

「がんばろう、能登。がんばろう、金沢」生かされている命に感謝しつつも、今年も一高校野球ファンとして、球児たちの全力プレーを目に焼き付けていきたいと思ってます。