<「グローバル資本主義」から「ステークホルダー資本主義」へ

・かつて、資本主義には、米国に代表される「アングロサクソン型」、ドイツに代表される「ライン型」、「日本型」といった様々なタイプが存在した。しかし、ポストコロナの時代には、こうした資本主義の様々なタイプが、ひとつの方向に収斂する動きが予想される。

 

お金とヒトは、どちらが大切なのか?

・しかしながら、ポストコロナの時代を展望すると、資本主義は第四ステージ(「資本主義4.0」)に入ると予想される。それは、「資本(お金)」ではなく、「労働者(ヒト)」こそが付加価値の源泉となる新たな時代だ。

 

・「資本主義4.0」に向けた始動は着実に生じている。

 第一に、最近のマイナス金利は世界中でお金が余っていることを意味している。つまり、従来と比べて、「資本(お金)」の価値が大幅に低下しているのである。

 第二に、人工知能(AI)の発達も、資本主義に大きな変化をもたらすことになるだろう。

 

経済学は「分配」や「格差」に関する分析を怠ってきた

・現在、資本主義が抱えている最大の問題は、所得分配の不平等や格差拡大である。

 

・以上を総括すると、伝統的な経済学は「成長」や「効率性」の追求に重点を置き、「分配」や「格差」などの問題に正面から取り組んでこなかったことが最大の問題である。そもそも、ケインズは、効率性ばかりを追求するのではなく、経済的な効率性と、個人の自由や社会的公正のバランスを取ることを主張していた。ポストコロナ時代の経済学には、こうしたケインズ本来の考え方などを踏まえて、格差や社会的公正などの問題に正面から取り組むことが求められる。

 

変化❷ 格差拡大で、反グローバリズム・ナショナリズムが台頭

・ポストコロナの時代に想定される第二のグローバルな構造変化は、格差拡大を受けて、反グローバリズム、自国中心主義、ナショナリズム台頭のリスクが高まる点だ。

 感染症にかかった場合、高所得者層は高度医療の恩恵を受けて生命をとりとめるケースが多い一方で、貧困層の生命は容赦なく奪われかねない。

 

ポピュリズムが横行し、政治の不安定性が増大

・今後、懸念されるのは、1929年の世界大恐慌の後に起きたような、反グローバリズム、自国中心主義、ナショナリズムの台頭である。

 欧州では既にこうした予兆が生じている。

 

・歴史を紐解くと、大きな経済危機が起きると、その後、反グローバリズム、自国中心主義、ナショナリズムが台頭する傾向が見受けられる。

 

・ポストコロナの時代には、中国やロシアなどの権威主義国・国家資本主義国の台頭も懸念される。歴史の教訓を踏まえて、国際社会が連帯して、反グローバリズム、自国中心主義、ナショナリズムに立ち向かうことが肝要だ。

 

資本主義と民主主義の離婚

・こうした厳しい現実を受けて、「資本主義と民主主義の離婚」が進行している。民主的に選ばれた政府が、格差を一向に解消してくれないことに対する貧困層の不満は、もはや制御不能なレベルにまで達している。

 

・筆者は、この「資本主義と民主主義の離婚」という問題を解くカギは、2つあると考えている。

 第一に、資本主義サイドからは、繰り返し指摘してきた通り、SDCsを中心に据えた「ステークホルダー資本主義」へと転換することが最大のポイントである。

 

・第二に、民主主義サイドからは、各国が社会保障制度の充実などを通じて、所得再分配を強化することが肝要である。また、健全な民主主義の担い手となり得る「主権者教育」を強化すると同時に、世論の分断を助長するSNSへの規制なども検討すべきだろう。

 

「設計主義」への懐疑

・2つ目の構造問題として、「設計主義」に対する懐疑的な見方が強まっている点が挙げられる。ここで言う「設計主義」は、多くの場合、エリート主義と言い換えてもよいだろう。

 

・現状は、英国のみならず世界中の各地で、反エリート主義やオートノミー、つまり「自己決定権」を求める動きが加速している。いわば「自分のことは自分で決めたい」という考え方である。

 

・いずれにしても、ここまで指摘してきた、①資本主義と民主主義の離婚、②「設計主義」への懐疑、という2つの構造問題に、「パンデミックの逆進性」という新たな問題が加わり、ポストコロナの時代は、ポピュリズムが横行し、社会の分断・不安定化が加速することになるだろう。まさしく、われわれは人類の叡智が問われる時代に生きているのである。

 

変化❸ 米中対立が激化し、「資本主義vs.共産主義」の最終戦争へ

・ポストコロナの時代に想定される第三のグローバルな構造変化として、米中対立が激化し、「資本主義vs.共産主義」の最終戦争が行われる可能性が高い。

 

米中対立に端を発したブロック経済化の懸念

・キーワードは「デジタル専制主義」である。「デジタル専制主義」とは、2018年1月のダボス会議で注目された言葉で、「経歴、嗜好、個人の行動など、あらゆる情報が国家の管理下にあり、データを掌握する者が世界の将来を左右する」状況を意味する。中国が「デジタル専制主義」に向かう中、民主主義は意思決定のコストやスピードなどの面で不利なので、中国が覇権を握るとの懸念が強まっている。

 

英国のブレア元首相が「ヒストリー・イズ・バック」と発言した理由

・すなわち、①「モラル・ハザード」が起きて人々が怠けたこと、②共産主義エリートの能力が市場よりも劣っていたこと、という2つの致命的欠陥から、共産主義は一敗地にまみえ、歴史はいったん終わったかのように見えたのである。

 

なぜ、共産主義が息を吹き返したのか?

・それではなぜ、一度崩壊した共産主義が息を吹き返したのだろうか?

 第一に、「『モラル・ハザード』が起きて人々が怠けた」という問題点は、AI(人工知能)の発達などによって克服された。

 

・「共産主義エリートの能力が市場よりも劣っていた」ことによる、需要の読み違いという第二の問題点は、ビッグデータの活用などによって克服された。

 

・データは「21世紀の石油」とも言われており、ポストコロナ時代の経済活動のなかで、中核的な役割を果たす。

 

米中間の覇権争いはこれから10~20年続く

・グローバリゼーションの最大の受益者と言っても過言ではないわが国にとって、米中対立に伴うブロック経済化の進展は、まさしく死活問題となる。

 

・したがって、もし米中対立が深刻化し、完全なブロック経済化が進むような事態になると、前記の需要がすべて消失し、日本経済には少なくとも20兆円規模のダメージがあることを覚悟する必要があろう。

 

米中対立のワーストシナリオ

・最悪のシナリオは、米中両国が軍事衝突に至るケースである。

 

・筆者は、わが国の外交政策の基軸は間違いなく「日米同盟」であるが、米中両国の対立激化やブロック経済化などの回避に向けて、米中両国の仲介役を果たす必要があると考えている。

 

中国の「バブル」崩壊を警戒せよ

・筆者の中国経済に対する見方を一言で述べれば、「短期=楽観。中長期=悲観」である。中国は「社会主義」の国なので、公共投資を中心とするカンフル剤を打てば、問題を2~3年程度先送りできる。しかし、向こう5~10年程度の中長期的な時間軸で見れば、中国では「バブル」崩壊のリスクが高まるとみている。

 第一の過剰は金融面での過剰融資である。中国における過剰融資の総額は1000兆円以上と推定される。将来的に、このうち何割かが焦げ付く場合、数百兆円規模の不良債権の発生が懸念される。わが国の「バブル」崩壊に伴う不良債権額が100兆円規模であったことを勘案すると、文字通り「人類史上最大のバブル」といっても過言ではない。

 第二の過剰は、工場や機械といった、いわゆる「資本ストック」の過剰である。その総額は700兆円以上とみられる。

 

・国有企業の債務は最終的には公的部門の債務となる可能性が高いので、その部分を含めて考えると、現在の中国では実質的な公的債務が名目GDPの1.7倍以上に達しているとみる向きもある。「借金漬け」とも称されるわが国で、この比率が2.4倍弱であることを考えると、もはや中国には、大きな財政出動余地は残っていないと考えるべきだろう。

 もう一度、繰り返そう。中国経済は間違いなく「バブル」である。

 

・筆者の中長期的な中国に対する見方は、依然として慎重である。それは、国民の不満が蓄積する本質的な原因は、「社会主義・市場経済」と言われる中国の矛盾した体制にあるからだ。

 

変化❹ グローバル・サプライチェーンの再構築が不可避

・ポストコロナの時代に想定される第四のグローバルな構造変化は、サプライチェーンの再構築が進むとみられる点である。ポストコロナの時代には、危機管理体制の強化やリスク分散の推進が求められるからだ。

 最初に危機管理という側面では、今回の新型コロナショックに対して、わが国は無防備であったと言わざるを得ない。

 2018年の時点で、米国のジョンズ・ホプキンス大学が新型コロナウイルスの出現を予見し、警鐘を鳴らしていたことが広く知られている。脅威となるウイルスに備えて調査・監視に資金を投じること、科学的根拠に基づく治療法を官民医の連携で模索することなど、8つの勧告を含むこの報告書は、残念ながら全く活かされなかった。

 わが国では、国立感染症研究所の予算が、過去10年間で20億円程度、すなわち3分の1程度、カットされてきた。感染症の拡大とグローバリゼーションがセットで拡大してきた過去数千年の歴史を踏まえれば、日本政府が事態を俯瞰できていなかったことは間違いない。

 

グローバル・サプライチェーンの再編が進む

・ポストコロナの時代には、グローバル・サプライチェーンの大規模な再編が起きるとみられる。

 

・筆者が最も強調したいのは、ポストコロナ時代のサプライチェーンが、従来とは全く異なる次元で再構築されることになる点である。

 

卵をひとつのカゴに盛ってはいけない

・ポストコロナの時代には、中国の「カントリー・リスク」の大きさを考慮すると「チャイナ・プラス・ワン」の動きがより一層加速するとみられる。

 

虎穴に入らずんば虎児を得ず

・中国は「社会主義」の国なので、少なくとも向こう2~3年程度、うまくマネージすれば4~5年程度、「バブル」崩壊を先送りすることは十分可能だ。したがって、今後、日本企業は、将来的なリスクを覚悟で、最大で向こう5年程度の中国市場拡大の利益を取りにいくか否かという、極めて悩ましい経営判断を迫られるだろう。

 

「ボリューム・ゾーン」の攻略がカギ

・ポストコロナの時代に、日本企業が「チャイナ・プラス・ワン」の市場で成功を収めるには、アジアにおける中間所得層の消費市場(いわゆる「ボリューム・ゾーン」)の攻略に真剣に取り組む必要がある。

 

変化❺ 不良債権問題が深刻化し、潜在成長率が低下

・ポストコロナの時代に予想される第五のグローバルな構造変化は、不良債権問題が深刻化し、潜在成長率が低下するリスクが生じることだ。

 

グローバルな金融危機は再来するか?

・筆者は、行きすぎた金融緩和が長期化すると、仮に物価が安定していたとしても、過度な債務拡大などの金融の不均衡がじわじわと蓄積し、臨界点を超えると、「バブル」が崩壊して金融危機が起きかねないとみている。

 

新興国発の経済・金融危機に備えよ

・グローバルな視点でみると、今後の経済・金融危機の震源地として最も警戒すべきなのは新興国である。

 新型コロナウイルスの感染者数をみると、2020年5月上旬の時点で、新興国が先進国を上回った。

 

・新型コロナショックの影響が拡大するなか、新興国の債務不履行リスクが急速に高まっている。

 

・こうした新興国の脆弱性などを背景に、新型コロナウイルスショックが発生してから、新興国からの資金流出が加速した。とりわけ韓国、台湾、インド、タイなどのアジア諸国・地域や、ブラジルなどからの資金流出が顕著だった。

 

変化❻ 財政収支が軒並み悪化し、財政政策と金融政策は融合へ

ポストコロナの時代に予想される第六のグローバルな構造変化は、「大きな政府」が指向され、財政赤字問題が軒並み深刻化する点である。その理由は、言うまでもなく、景気悪化で税収が低迷する一方で、感染症への対応で歳出が増えるからだ。

 

財政政策と金融政策の境界が曖昧に

・ここまで指摘してきた通り、ポストコロナの時代には、各国の財政収支は軒並み悪化するとみられる。

 そこで懸念されるのは、財政政策と金融政策の境目が曖昧になり、両者の癒合が進むことだ。

 

変化❼ リモート社会(非接触型社会)到来で、企業経営に激震

・ポストコロナの時代に予想される第七のグローバルな構造変化は、感染症を避けるために、リモート社会(非接触型社会)が指向されるなど、産業構造の激変が起きる点である。

ソサイエティ5.0」と言われるテクノロジーを中心とした社会をつくり上げるべく、テレワーク、オンライン診療、オンライン授業、インターネット投票などの実現・拡充を期待する声が高まっている。とりわけテレワークを積極的に推進すれば、無駄な仕事がなくなり労働生産性が上がるだけではなく、世界中から優秀な人材を採用できるというメリットも生じると考えられる。

 

変化➑ 中央集権型から分散型ネットワークの時代へ。地方に脚光

・ポストコロナの時代に予想される第八のグローバルな構造変化は、長年人類が目指してきた中央集権型の仕組みが、分散型ネットワークへと移行する点である。この結果、都市部の不動産価格は大きく下落し、わが国では地方創生の千載一遇のチャンスが生じるだろう。

 

日本の強みと弱みを検証する

強み❶ 社会が安定し「サスティナビリティ」が高い

・第一に、日本最大の強みは、「共存共栄」の思想、自然との共生、遵法意識の高さなどに裏づけられた、安定的な社会が存在することである。そして、この「社会の安定」は、「サスティナビリティ(持続可能性)」の高さという面での、わが国の優位性につながっている。

 

強み❷ 勤勉さ、繊細さが、世界一の技術とサービスを生む

・第二に、日本人は勤勉、繊細である点も、大きな強みになっている。

 勤勉で繊細な国民性を背景に、日本の「ものつくり」は高い技術レベルに支えられており、わが国の「サービス」は間違いなく世界一の水準である。

 

弱み❶ 強烈なリーダーシップを嫌い、嫉妬深い国民性

・第一に、日本人には、強烈なリーダーシップを嫌って平等を好み、かつ嫉妬深い国民性がある。日本の社会には、悪しき平等主義が蔓延しており、成功者を羨む傾向が強い。

 

弱み❷ 付和雷同的で「熱しやすく、冷めやすい」

・第二に、日本人には、付和雷同で周りの空気に流されやすい性癖がある。要するに、日本は「ムラ」社会なのである。

 

弱み❸ 論理的な思考力が弱く、情緒的

・第三に、日本人は論理的な思考力が弱く、情緒的な傾向がある。こうした日本人の特質は、近年大きな試練に直面している。国際社会では、日本人の特質は、近年大きな試練に直面している。国際社会では、日本人の得意な「あうんの呼吸」はなかなか通用しない。

 

弱み❹ スピード感の欠如

・第四に、日本人はスピード感が決定的に欠如している。

 

弱み❺ 「多様性(ダイバーシティ)」の欠如

・第五に、今後の日本にとって最も重要なキーワードは「多様性(ダイバーシティ)」の推進である。

 

100年以上前の「20世紀の予言」は的中したか?

・今から約120年前の1901年の1月2日・3日の報知新聞に「二十世紀の予言」という特集記事が掲載された。当時、100年近く先の西暦2000年に実現が期待される、夢のような話についての特集である

「二十世紀の予言」のなかで、現実にいくつの項目が実現したのだろうか?

 実は、23項目のなかで、実現しなかったものが6項目ある。

 

・例えば、「7日間世界一周」という項目がある。当時、80日間かかった世界一周がたった7日で実現できれば夢のような話だったが、現在は7日もかからない。

 そのほかにも、「人声十里に達す」「写真電話」「買物便法」「厚寒知らず」という耳慣れない項目が軒並み実現した。これらは一体何のことだろうか?

「人声十里に達す」とは拡声器や電話のことで、「写真電話」はテレビ電話、「買物便法」はネットショッピングのことだ。「厚寒知らず」とは読んで字の通り、エアコンのことである。

 つまり、夢のような話であっても、100年たってみれば当然のことのように実現している。人類の科学技術の進歩に限界はないということだろう。

 

「日本の勝機」のヒントが本郷バレーにあった

最後に、ポストコロナの時代のグローバル市場における「日本の勝機」を探るヒントは、本郷バレーにあることを強調したい。

 

「リアル」と「バーチャル」の融合で勝負せよ

・本郷バレーで筆者が感じた日本の勝機をずばり一言で言えば、「ハード」と「ソフト」、「リアル」と「バーチャル」が融合した分野にある。言葉を換えれば、製造業や建設業といった現業と、AIなどのハイテクを融合させることがカギとなる。

 

ポストコロナ時代にわれわれはどう生きるのか

<指針❶ 多様性や選択の自由を尊重しつつ、有事の緊急事態法制整備を>

 

<指針❷ 労働市場の機能不全を解消、労働生産性を向上>

 

<指針❸ 「SDGs大国宣言」を行い、国際社会での立ち位置を明確化>

 

<指針❹ 感染症へのレジリエンスのある社会を構築する>

 

<指針❺ 財政政策と金融政策の融合が進むなか、財政規律を維持する>

 

<指針❻ 分散型ネットワークを構築し、地方創生に舵を切る>

 

<指針❼ 企業は自らの存在意義を問い、抜本的な経営変革を>

 

指針➑ 個人はリベラルアーツや経済・金融を学べ

・本書の締めくくりとして、ポストコロナ時代に個人がどう生きるべきか、という点を論じたい。ここでは、特にリベラルアーツを学ぶことと、不透明な時代のなかで、経済や金融について知見を深めることの重要性を強調したい。

 近年、わが国では大学のリベラルアーツ(教養教育)をめぐる議論が迷走しており、「リベラルアーツ教育を縮小し、実践教育を重視するべきだ」との主張が勢いを増している。

 

異分野の知見にイノベーションの種がある

・今やハーバード・ビジネス・スクールのケーススタディの定番とも言える、トヨタ自動車の「かんばん方式」が、米国のスーパーマーケットの在庫管理方式からヒントを得たというのは有名な話だ。流通業という異分野からヒントを得ることで、世界に冠たる「かんばん方式」が誕生したのである。

 筆者は、こうした視点から、日本人は積極的に「副業」を持つべきだと考えている。異分野の知見のなかにこそ、新しいイノベーションの種が山ほど埋まっているからだ。

 

「金融リテラシー」を向上させる勉強法

・次に、ポストコロナの不透明な時代のなかで、経済や金融を学ぶことが重要である点を強調しておきたい。

 

AIに負けない人間になるための5つの能力

・われわれはAIに代替されない人間になるには、次の5つの能力に磨きをかけることが重要だと筆者は考えている。

 

第一は「対人関係能力」。第二は、「創造性」。第三は、「物事を抽象化する能力」。第四は、「分野横断的な総合知」。第五は、「哲学や価値判断を行う能力」。

 

日本の未来は明るい、元気を出そう!

「よくぞ日本に生まれけり」。日本は本当に素晴らしい国だ

 英国の歴史家・トインビーの分類によれば、世界は7つの文明圏に分けられる。「西欧キリスト教文明」「ロシア正教文明」「イスラム文明」「ヒンズー文明」「シナ(中華)文明」「中南米・ラテン米国文明」、そして「日本文明」である。

 つまり、日本は一国でひとつの文明圏を形成する、世界で例を見ない国なのだ。

 

・筆者は、われわれ日本人が「わが国が守り抜くべき美点」と「変革するべき点」を正しく峻別し、国民一丸となって努力すれば、ポストコロナの時代に日本経済は必ずや「不死鳥」のごとく復活すると確信している。

 

結局、われわれにできるのは、自分たちに可能な範囲で、最善を尽くす――「人事を尽くして、天命を待つ」ことに尽きるのではないだろうか。

 

・138憶年にわたる宇宙の悠久の歴史から見れば、われわれの一生など儚(はかな)いものである。1粒のコゴミのようなものだ。しかし、儚いからこそ、与えられたわずかな期間ではあるが、「生」を全うすることが大切なのである。

 

 

 

『フェルドマン教授の未来型日本経済最新講義』

ロバート・フェルドマン  文藝春秋  2020/8/27

 

 

 

フェルドマン式未来型経済のポイント

生産性の高いIT人材を育成する

◉技術革新が経済復興のカギ

◉国のお金は公共投資、研究開発費、教育費へ

◉大学生の海外留学を必須に

◉社会人にこそリカレント教育を

◉76歳を退職年齢に

◉東京一極集中をやめて地方再生へ

 

新型コロナウイルスという未知のウイルス

・怪物というのは、災害や戦争や社会問題の比喩でしょう。21世紀のいまなら、地球温暖化であり、エネルギーや食糧、人口増加の問題。そして2020年は、新型コロナウイルスという未知の怪物が世界の隅々まで襲い、甚大な被害をもたらしました。

 これらの怪物から人類を救うために日本は何をすべきか、というのがこの本のテーマです。答えは、技術革新を経済により迅速に、より密接に、より広く普及させることです。新しい技術が現れると、経済をどう変えるのか。変えるためには、どのような政策が必要なのか。技術革新を中心に、日本経済の展望を語ります。

 

・その本のまえがきで、経済学とは「希少資源の最適な利用の学問」であり、その目的は「希少性からくる争いを減らし、世界を平和にすること」にあると書きました。誰もが食べ物に困らず、お金持ちになれれば、世の中から戦争や争い事はなくなるでしょうという意味です。

 

・エネルギーに関しては新しい技術が進歩して、各々の技術のコストが完全に変わりました。石油と石炭の発電所は減り、本格的な再生可能エネルギーの時代に入りました。

 労働市場に流動性がないことは、まだまだ大きな課題です。しかし5年前に比べ、リカレント教育の意味が大きくなっています。歳を取っても高い生産性を誇る労働者がたくさんいることは、日本にとって大きなビジネスチャンスになるはずです。

 

・社会保障を巡る状況は、進歩がありません。しかし、私の処方箋が変わりました。簡単に言えば、退職年齢を上げるべきだという主張です。少子高齢化社会にあって年金制度を維持するには、長く働くしかありません。

 地方再生については、視点を変えました。前の本では「政治がおかしいから、地方が疲弊している」という話をしましたが、今回は物流構造と東京一極集中によって地方の価値が下がっていることの弊害を論じました。

 前の本に全くなかったテーマは、AIです。AIが進歩するスピードはすさまじく、今後あらゆる経済分野に影響を与えます。

 

・御歌の意味は「なまけて磨くことを怠ったならば、立派な光を持つ宝石も、瓦や石ころと同じで、何の役にも立たなくなります」。

 

Q1 地球温暖化はどこまで進んでいるのか

世界に山積する課題の中で、最も高くそびえ立つ難問が地球環境の悪化です。中でも温暖化は、今世紀の半ばまでに食い止めなければ、豪雨、干ばつ、害虫繁殖、新型コロナウイルスのような疫病の発生とさらなる蔓延の原因になることが避けられません。その結果、世界は慢性的な食料危機に陥り、難民は激増し、人間もほかの生物も生き残れなくなります。

 

海水温も次第に上昇しています。ここ数年、猛烈な台風や熱帯のような豪雨に当たり前のように襲われることがその証です。当然、全世界で同じ現象が起こっています。

 

・GDPは人口と生活水準で決まりますが、ここではGDPだけ考慮に入れれば十分でしょう。GDPが上がれば、利用するエネルギーが増えます。1980年から2016年の間に、世界の実質GDPは年率で4.1%伸び、CO2は年率1.7%ずつ増えていきます。

 

Q2 気候変動が続くと人々の暮らしはどう変わる?

・海水が蒸発して大気に含まれる水分が増えるので、豪雨が多くなります。南極の氷山が融解するので、海面が上昇し、水没する国や都市が出てきます。海水温が高くなるので、海流や気流が変わり、干ばつが起こりやすくなります。山火事も増えます。河川の流量が減り、水力発電がうまくいかなくなります。

 洪水、熱波、害虫の発生で、耕地は減少し、農作物の収穫量が減ります。

 

Q3 化石燃料を減らすには?

・このような将来を避けるためには、CO2などの温暖化ガスの排出を抑えること。一番効果的なのは石油や石炭、天然ガスといった化石燃料の使用量を減らすこと。さらにそのためには、化石燃料より安くて使いやすいエネルギーを作ることが必要です。

 

Q4 日本にはどんなビジネスチャンスがあるのか

・これだけ急激に変わる世界のエネルギー事情の中で、日本はどう動けばいいでしょうか。私は、前述した世界全体のシナリオで、CO2の排出総量58%減を目標に掲げました。しかし技術先進国の日本は、90%カットを目標にすべきだと考えています。すなわち、2016年の1.2ギガトンを、2050年には0.12ギガトンまで減らすのです。そのためには、化石燃料の使用割合を12%まで下げなければなりません。

 

・日本は、エネルギーのほとんどを化石燃料の輸入に頼っています。エネルギーが安くなっていても、毎年海外から約17兆円(2019年)をかけてエネルギーを買っています。IRENA(国際再生可能エネルギー機関)のデータを基に計算した右の年間3兆円を国内の再生エネルギー事業に投資すれば、20年以内に、この17兆円の節約も達成できるかもしれません。

 

AIの定義と働き

・未来図の話に入る前に、AIとは何なのか、まず定義付けをしておきましょう。いろいろな定義がありますけれども、私は「人間の能力をはるかに超えたパターンの認識を行うのがAI」というのが、一番わかりやすいと思っています。

 

Q1 生産性の高いIT人材の育て方

・1543年、火縄銃が日本に伝来しました。鹿児島の種子島に漂着したポルトガルの船に積まれていたことから、種子島と呼ばれるようになります。

 刀や弓矢で戦っていた当時の武士には、驚愕の新技術だったことでしょう。現代の我々にとってのAI以上に、強いインパクトを受けたに違いありません。

 

・ここで、マルクス経済学と現代経済学の興味深い違いが出てきます。マルクス経済学では、資本と労働は敵対的です。資本家が利益を上げたければ、労働者から搾取するという関係だからです。

 現代の経済学では違います。資本を投じて新しい機械を作っても、その機械を使える人がいなければ、意味がありません。機械を作る資本とスキルをもつ労働力とは、むしろ補完関係になります。

 すると、社会の形が変わってきます。これがAIのもたらす新しい意味です。資本家は、スキルを持つ人たちをどうしても雇いたい。すなわち、人間がAIに仕事を奪われないようにするのは、新しい技術を使いこなすスキルを身につけることがポイントになります。

 見たこともない新しい技術が登場したら、訓練をして、使えるようにならなければいけません。そうすれば、生産性が高くなり、賃金も上がります。かつて火縄銃を使いこなし、米百俵の知恵ももつ日本人は、それに対応できる素質を備えているのです。

 

Q2 AI技術の進化で、日本の産業はどう変化するのか

AIが発達すると、現在の仕事が奪われてしまうのではないかと心配する人が、たくさんいます、実は私も、その一人ですエキスパートシステムによって、経済学者は不要になる可能性があるといわれているからです。とても怖いことです。

 では、どんな仕事がAIに取って代わられ、どんな仕事が人間のもとに残るのでしょうか。この問題に関しては、すでにOECDなどがさまざまな研究を行っています。

 

・不動産も同様でしょう。「私はこういう家が欲しいです」と希望の条件を出すと、「ピッタリの物件がここにありますよ」と、たくさんのデータの中から即座に選んでくれるシステムが、すでに普及しています。

 

・農業も似ていると思います。この土地にはどういう作物が適しているか、気象条件や土壌の分析結果から、AIが考えてくれるでしょう。

 小売業は、基本的にビスポーク(手でやる特注)です。お客さんが何を買いたいかによって、仕事の中身が変わります。だからamazonや楽天は、どんなニーズにも応えられるように、サイトの検索機能の向上に努めているわけです。

 飲食業にも、似たような部分はあります。注文した食べ物をウェイターさんがうやうやしく運んできてくれるのは、気持ちがいいものです。しかしその人件費が、料理の値段に上乗せされます。一方、回転寿司はルーティンワークをIT化と機械化の徹底によって人件費を節約することで、大幅なコストダウンに成功しました。

 このように、マニュアルとビスポーク、マニュアルとルーティン(手でやる定型的)をどうやってうまくIT化、機械化していくのかが、これからあらゆる産業で課題になります。

 

・金融は、すでにAIの利用が進んでいる業種です。たとえば、クオンツという仕事があります。「Quantitative=数量的」から派生した言葉です。従来のファンドマネージャーは、経験則から売る株と買う株を決めていましたが、高度な数学を駆使して市場の動向や企業業績を分析・予測し、金融商品を開発したり投資戦略を組み立てることです。機械化した商品、あるいはロボット運用と言い換えることもできます。