ドリルのスイッチ | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 入院患者が見舞客に言った。「薬の影響で睡眠時間がかなり長くなっているよ。それで、夢ばかり見ている。さっきは頭頂部のドリルで土の中を掘り進んでいる夢を見ていたよ」

 「変な夢だな」と見舞客は首を傾げながら訊いた。

 「楽しい夢だったよ。僕は脳の中にドリルのスイッチがあると感じていて自分の意志で頭頂部のドリルを回転させていたよ。脳に潜んでいる未知の可能性に気付かされたみたいだった。僕にはもっと色々な種類の才能が備わっているのかもしれない。それらの才能をほとんど発揮しないまま死ぬかもしれないと思うと勿体ないと感じるよ」と患者は残念そうな顔で言った。

 「しかし、現実世界では頭頂部にドリルが付いていないのだから頭頂部のドリルを回転させる才能があったところで無駄だと思うよ」と見舞客は呆れたような顔で言った。

 「現実世界で役に立たないという判断のせいで僕は今まで色々な才能を見つけられずにいたのだろうね。そう考えてみると歯痒いけど、ドリルのスイッチだけでも死ぬまでに見つけられて良かったよ」と患者は言った。


目次(超短編小説)