笑い声のボタン | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 独房の壁には一つのボタンがあり、それを押すと天井から楽しそうな笑い声が聞こえてくる仕組みになっている。囚人の孤独を癒す為に備えられた装置であるらしいのだが、笑い声が聞こえてくる度に馬鹿にされているかのように感じて腹が立つので私はもう何年も押していない。二度と笑わせないと決心している。

 しかし、他の囚人達は寂しくなる度にボタンを押しているようで独房の外から絶えず楽しそうな笑い声が聞こえてきている。連打して天井をずっと笑わせ続けている囚人もいるようである。私はそれらの小さな笑い声さえも気に入らないのだが、他の囚人達の行動を制限する権利などあるはずもないので我慢するしかない。

 ある日、看守が言ってきた。「お前の独房からは笑い声が聞こえないな。故障しているのか?だったら、修理しようか?」

 「いいや。どうせ笑わせるつもりはないから修理も点検も不要だ」と私は即座に断った。


目次(超短編小説)