砂浜を歩いていて急に大粒の雨が降り出した。先程までは強烈な陽光が辺りに降り注いでいたのだったが、たちまち夕闇のような薄暗さになり、一気に土砂降りになった。
砂浜は大勢の海水浴客達で賑わっていたはすだが、あまりにも激しい雨のせいで私の視界は一気に狭まった。私は数人の仲間達と共に海岸を訪れていたのだったが、彼等の姿も見えなくなった。
急激な天候の変化に驚いて茫然としていると海があったはずの方向から一人の女が走ってきて私と衝突した。寸前まで女の姿が見えていなかったので私は思わず尻餅を着いた。女も一緒になって転んだ。
私が先に立ち上がると女はゆっくりと立ち上がった。怪我をしているのではないかと心配になって声を掛けてみたが、雨音が騒々しいので私の言葉は相手の耳に届かなかったかもしれなかった。
髪が長い女だった。私はその長い髪によって半ば隠れている女の顔が鱗によって覆われていると気が付いて驚愕した。それに、目に瞼がなく、口に唇がなかった。剝き出しになった歯が鋭く尖っていた。
女は私の方を一瞥もせずに駆け出し、海とは反対の方向へと走り去っていった。私は恐怖を覚えて身が竦み、激しい雨に打たれたまま動けなくなった。仲間は無事だろうかと心配になったが、彼等の居場所はわからなかった。
目次(超短編小説)