焚火の匂い | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 真冬に友人達と海岸沿いの道路を歩いていた。空がどんよりとした分厚い雲に覆われていて沖の方から冷たい風が吹いてきていた。「あそこで何かが燃えているよ」と友人の一人が大声で言った。

 周りを見回すと堤防の向こう側にある砂浜でもくもくと煙が上がっていた。遠いのでよくは見えないのだが、寄せ集められた流木が燃えているようだった。

 「焚火かな?」「誰もいないよ」「あそこに行ってみようよ」「行って何をするの?」「木を投げ入れて火をもっと大きくしようよ」「勝手に火を大きくしたら怒られるかもしれないよ」「火を大きくしたら危ないよ」「僕は厭だな。行かないでおこうよ」「そうだね。行かないでおこうよ」

 友人達が口々に意見を言い合う様子を私は黙ったまま眺めていた。焚火の方にもちらちらと視線を向けていたのだが、冷気が頭蓋骨の内側にまで浸透してきたように感じていて意識がぼんやりとなっていた。しかし、焚火の匂いが鼻先を掠め、私はひどく懐かしい気持ちになった。それで、砂浜の焚火に近寄ってみたくなった。「あそこに行ってみようよ」と私は言った。


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