数を話す女の声 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 女の声が耳に入ってきたので目が醒めた。そういえば、居間で書物を読んでいる最中に睡魔に襲われたのだったと私は思い出した。

 いつの間にかラジオの電源が入っていて女の声が聞こえてきていた。女は私が知らない言語を話していたが、どういうわけか私は彼女が発する単語の悉くが数を表しているようだと認識していた。そして、それらの数がとても重要な情報を示す暗号になっているような気がするので忘れるわけにはいかないと思った。

 陽光が窓から差し込んできていて部屋の中は明るかった。私はペンを手に取り、女の声を聞き取りながら紙に数を書き留めていった。しかし、それらの数字も私が知らない記号になった。たった一本の曲がりくねった線が十桁の数や分数などを示していた。

 ふと壁に目線を向けてみた。建物が老朽化しているせいで亀裂が走っているのだが、私はその稲妻のようにも見える線が円周率の値にかなり近いと気が付き、深い感動を覚えた。少数点以下のかなり小さな数まで一致していた。しかし、円周率の値から外れる地点があった。その亀裂はそこから美しくなくなっていると私は感じた。


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