小人の箱 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 「時々、この箱の中から小人が出てくるのですよ」と館の主人が言った。

 館の庭先に一個の木箱が置いてあった。そこそこ大きいが、装飾などは一切なかった。蓋が開いているので中を覗き込んでみたが、空っぽで底に薄らと埃が溜まっていた。「元々、何が入っていた箱なのですか?」と私は主人の方に振り向いてから訊いた。

 「友人から押し付けられたのです。彼女は小人を生み出す箱だと言っていました。実際、私はこの箱から小人が出てくる場面を既に何度も目撃しているのです。きっと今もこの庭から逃亡した小人達は世界のどこかに潜んでいるのでしょう」と言って主人は門の方に目を向けた。

 「それで、なぜ私にこの箱を譲ろうと思ったのですか?」と私は訊いた。

 「私は小人が庭から逃げ去っていく場面を見る度に堪え難い寂しさを味わっているのです。小人達はどれだけ捜しても見つかりません。今も小人達の安否を考えると心配で胸が苦しくなります。これ以上は同じ体験を繰り返したくないのですよ。だから、珍しい物品を蒐集している人がいるという話を小耳に挟んだ時、それなら是非この箱をもらっていただきたいと考えたのです」と主人は答えた。

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