林檎を齧っている夢 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 林檎を齧っている夢を見た。私は薄暗い部屋の中に立っていた。開け放たれた窓から吹き込んでくる風がひんやりと寒いので身体を震えさせていた。屋外では滝のような大雨が降っていたのだが、とにかく林檎を食べ続けなければならないとばかり考えていて窓を閉めようという発想が思い浮かばずにいた。

 テーブルの上には他にも十個程の林檎が置かれているのだが、私は片手に持っている一個の林檎をなかなか食べ尽くせずにいた。それは小さくさえならなかった。その林檎は柔らかくて噛み応えがまったくなかった。口の中に入れても風味が感じられなかった。私は食べれば食べるだけ物足りない気持ちにならされていっていた。

 しかし、それでも私は林檎を食べ続けなければならないという想念から逃れられずにいた。腹が減って惨めな心境になりつつあるのだが、他の林檎でその空虚の穴埋めをしようとも思わなかった。気持ちが落ち込めば落ち込むだけ執着心が強まっていくようだった。私は寒さで身体を震えさせながら一心不乱に林檎を齧り続けていた。

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