影犬 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 深夜に懐中電灯を持って村の中を見回りしていると影犬が追い掛けてきた。私は足を急がせたのだが、振り切れなかった。足元から息遣いや鳴き声などが聞こえてきていた。

 この村にはよく影犬が出没するのだった。昔から村人達はそれを犬だと言っていたが、鳴き声はむしろ猫に似ているように聞こえていた。私は過去にも何度か夜の巡回中に付き纏われた経験があった。実際に危害を加えられたという話は聞かないのだが、正体がわからないので警戒心を抱いていた。

 月が出ていないので普段の夜よりも暗闇が濃くなっていた。今夜はやけに影犬がよく鳴くと私は感じていた。懐中電灯の光線で足元を照らしながら歩いていたのだが、時々、小さな影がそこを横切った。それがおそらく影犬なのだった。

 途中で私は橋を渡った。すると、辺りがすっかり静かになったと気が付いた。足を止めて耳を澄ませてみたが、水が流れる音だけが聞こえていて影犬の気配はどこにも感じられなくなっていた。どうやら影犬は川を越えられないという伝承は本当だったらしいと私は察した。

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