象が歩いていた | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 気のせいか。一瞬、視界の端に象が歩いていたように見えたのだが。そうだ。きっと気のせいだろうな。こんな狭いアパートの一室で象を見掛けるはずがない。まったく有り得ないじゃないか。

 では、何を象と見間違えたのだろう?机か?箪笥か?いやいや。さっきの象はもっと大きかった。それでは、壁か?天井か?いやいや。象は動いていたじゃないか。

 窓だ。カーテンが開いているじゃないか。そこに本当に象が歩いていたのかもしれないぞ。さあ、近付いてみろ。窓を開けろ。身を乗り出して屋外を見ろ。

 ああ。見間違いじゃなかったんだ。象は歩いていたんだ。あれは確かに象の尻だ。なんて大きいんだろう。皮膚が分厚そうだ。たくさんの皺がある。あの皺はどれだけ深いのだろう?

 でも、なんだか造り物っぽいな。どうしてだろう?まだ本物の象だと信じられていないからか?そりゃそうだ。普段はこんな街の中に象が歩いていないものな。でも、物理的にあり得ない光景ってわけじゃない。ただ、ここが熱帯地方じゃないってだけだ。これは起こり得る事態なんだ。きっと動物園から抜け出してきたのだろうな。

 あの角を曲がりそうだ。姿が見えなくなっても象があそこを歩いていたと信じておけるかな?なんだか無理っぽいな。すぐに信じられなくなりそうだ。それはちょっと寂しいな。そうだ。アパートから出て象を追ってみよう。そうと決まれば早速、出発しよう。

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