林檎を潰す少年 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 道端に赤い林檎が落ちていた。まだ瑞々しいように見えた。誰かが買い物の帰りに落としたのだろうかと思いながら辺りを見回してみると一人の少年がこちらに向けて駆けてきている姿が視界に入った。彼はそのままの勢いで林檎を蹴り飛ばした。

 林檎は幾つもの破片に分裂しながら宙に飛び上がった。爽やかな音が私の耳に届いた。それから少年は地面に落ちた破片を執拗に何度も踏み潰した。まるで容赦がなかった。果汁の染みが路面に広がった。

 その少年の乱暴な破壊を目の当たりにして私は息を飲んでいた。勿体ないと感じたが、足で踏み潰す行為に専念している少年の鬼気迫る表情を見ていると彼には林檎を破壊しなければならない理由があるのかもしれないと思われた。

 結局、私は少年に話し掛けられもせずに茫然と道路に立ち尽くしていた。そして、林檎の甘酸っぱい匂いが鼻先を掠めた。

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