大型屋外劇場の壇上で巨人達が大きな声を出して合唱していた。声が辺り一帯の空気や地面を震わせていた。
観客席には人間達が座っていた。彼等は巨人達の声に全身を覆われて意識が暗渠に飲み込まれていくような感覚に襲われていたのだが、恐怖が麻痺していて誰も抗わなかった。思考を奪われ、時間の感覚も失われていた。ひたすら歌声を全身に浴び続けていた。まるで巨人達の合唱を聴くだけの機能しか持ち合わせない存在になったかのようだった。単純化された意識の中には苦痛も後悔もなかった。
人間達の目には何も映っていなかった。巨人達の合唱を観ているという認識さえ失われていた。その一方で、聴覚だけが異常に研ぎ澄まされていた。彼等は空気や地面の振動を全身で感じ取っていた。歌声はいつまでも果てしなく響いた。暗渠は深くて広大だった。観客達は出口を見つけられないまま意識を漂わせ続けていた。
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