「これは海辺の石よ」と母が言った。「昼間に叔父さんが家に来てね、旅行のお土産だからと置いていってくれたのよ。早速、食べてみましょうか。きっと美味しいわよ」
テーブルの上には私の頭と同じくらいの大きさがある海辺の石が五つも置かれていた。私が住んでいる家は海岸線から遠く離れているので馴染みがない食材だったが、見た目は近所に転がっている普通の石と大差がないように見えた。どれも黒々としていて所々に白い斑点があった。
母は俎板に石の一つを置いた。かなりの重量があるようだった。叔父はそれらをトラックの荷台に積んで運んできたらしかった。自宅界隈では適当な大きさ石はすっかり取り尽くしていて地中深く掘らなければ上物が見つからない状態になっているので私はその石を見つめながら期待に胸が膨らませた。
包丁で真っ二つに切られると石の黒々とした表皮の内側には緑色の瑞々しい中身があった。母が片方を差し出してくれたので私はそれを匙で掬って食べた。頬が落ちそうな程に美味しかった。微妙な塩味が甘味を引き立てているようだった。母は潮風の匂いが感じられると指摘したが、私はよくわからなかった。
あまりにも美味しいので私達は一度に食べ過ぎた。消化して排泄するまでの数日間は身体が重過ぎるので家の中に閉じ籠ったまま過ごした。私はそれらの石をいつでも好きな時に食べたいと望み、いつか海辺に住みたいと願った。
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石を運ぶ
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