鳥から猫へ | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 鳥に変身したので悠々と大空を飛び回っていたのだが、陽が傾いて腹が空いてきたので私は自宅に舞い戻った。開放されたままになっている窓から寝室に飛び込むとドアの前の床に着地した。

 台所へ行って食材を探すつもりだったのだが、翼ではノブを回せないと気付き、私は途方に暮れた。嘴を大きく開けて噛んでみたが、力不足で回すまでには至らなかった。

 ノブと格闘している内に空腹が強まって気分が悪くなってきたので私はベッドに寝転んだ。すると、すぐに日が暮れて室内が暗くなった。鳥の目は暗闇に慣れなかった。開いたままになっている窓から吹き込んでくる冷たい風から逃れようと私は布団の下に潜り込んだ。

 どんどんと気弱な心境になってくるので私は元気を出そうと流麗な調子でさえずった。しかし、その唄もみるみる内に活力を失っていき、物悲しい声色に変わっていった。

 まるで猫のような鳴き声だと思った。すると、果たして私は猫に変身していた。布団から顔を出すと暗い室内の様子がありありと見えた。猫ならばドアを開けられるかもしれないと思い付いたので私はベッドから抜け出し、ノブに飛び掛かった。しかし、それは回らなかった。爪が引っ掛からなかった。

 強い空腹のせいで私は目眩を感じた。人間に戻りたいと切実に願いながら鳴いてみたが、なかなか人語の発声は難しかった。鳥の方が声帯が器用なのではないかと考えたが、もはや楽しそうに鳴けるだけの体力が残されていなかった。


前篇


目次(超短編小説)