夕刻になって腹が空いてきたので私は近所の食堂まで出掛けようと考えてソファから腰を上げた。冷蔵庫に入っている食材が尽きたわけではなかったのだが、なんとなく気怠くて自炊が面倒臭いように感じられていたのだった。
財布を持ってマンションから外に出てみると空はまだ明るかった。ひんやりとした外気が頬を撫でた。近所の食堂にはすぐに到着したが、ふと濃密な既視感を覚えて息が詰まるように感じられたので私はそのまま店の前を素通りした。
何か目新しい料理を食べたいと望んでいた。空腹が疼いていたが、私はそれを無視して歩き続けた。しかし、どこまで行っても視界には見覚えがある風景ばかりが入ってきた。この界隈の道は既にすべて踏破しているのかもしれなかった。
その夜は結局、近所のスーパーで購入した弁当をマンションの自室に持ち帰って食べた。腹が空いているはずだったが、あまり食が進まなかった。私はまるで一歩も部屋から出ていなかったかのように感じていて気持ちが塞ぎ込んでいた。脱出に失敗したという鬱屈した挫折感が心の底に蟠っていた。
目次(超短編小説)