地底国探検家 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 彼は地底国を探検していた。常に下り坂を歩いているような気がしていた。踵を返して反対方向に進んだとしても数十歩ばかり歩くと下り坂になるのだった。そのせいで彼は地上に脱出できなくなり、地底の深い層へと潜り込んでいっていた。

 地底国はどこも人口密度が高くて活気に満ち溢れていた。天井の照明が輝いていて地上の昼間と変わらないくらい明るかった。所々に傾斜が安定している地域があり、そのような場所には街があった。彼は所持金が尽きそうになると適当な店で雇ってもらった。そうして数年ばかり労働に従事して金を貯め込むと再び探検を開始するという行動を繰り返していた。

 もちろん、働いている間も情報収集は怠らなかった。しかし、やはり坂を下っている人々ばかりで、誰も地底国の全貌を把握していなかったし、地上への脱出方法を知っている人間も見つからなかった。そして、彼がいつか探検を再開するつもりであると打ち明けると呆れながら無謀な試みであると断言するのだった。

 「遠くまで歩けば、それだけ深く潜るだけだよ。誰も帰ってきやしない。だから、ここよりも深い場所の情報なんて誰も知らない。どんな危険が待ち受けているのかわからないんだ。どうして、そんな場所へわざわざ足を運ぶんだ?馬鹿馬鹿しい。それに、お前さんは地上から来たと主張するが、俺はそんな世界なんか一度も見た事がない。眉唾ものだな。もちろん、お前さんがこの近辺の生まれじゃないって事は承知している。流れ者だよな?でも、ここで俺達と一緒に過ごす人生にどんな不満があるんだ?無謀な探検を続ける必要がどこにある?お前さんだって理解しているんだろう?ここでは遠くまで歩けば、それだけ深く潜るだけだ。本当に、それだけだ」

 「俺は地底国を探検しているだけだから地上国への帰還は必ずしも果たさなければならない目標というわけではないよ。もちろん、調査の過程で帰路が見つかれば喜ばしいだろうけどね。それに、俺は地上にいた時に地底国の人間に出会った事があるんだ。だから、ここからの脱出は可能なはずなんだよ。その経路を開拓できれば皆が自由に行き来できるようになるかもしれない。それは素晴らしい事だと思うよ。」


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