ロープは位相学的に単純化された何もない宇宙空間へ飛び立った。片方の端は惑星の極に繋がったまま、もう一方の端がするすると天に昇っていった。
実験が早期に終了するように宇宙空間の体積は実際よりも縮小されていたので先端はすぐに壁に衝突した。すると、ロープは反対側を目指した。しかし、また、すぐに壁に衝突した。それでも旅が終結するわけではなかった。ロープに課せられた目的は宇宙の大まかな形状の把握にあり、その為にはあらゆる場所を通過しなければならなかった。位相学による実証にはその行程が必須とされているのだった。
ある日、先端が細長い物体と接触した。壁かと思ったが、調査してみると自分自身だった。実験の為に用意された仮想空間なので今までは壁以外の物体と一度も衝突していなかったのだが、旅が続いてロープが宇宙空間のあちらこちらに張り巡らされた為にいよいよ自分と衝突するという事態が発生したのだった。
その瞬間、ロープはこの単純化された清潔な宇宙空間において自分自身の存在が穢らわしい不純物であるように感じられ、即座に消え入りたいような衝動に駆られた。場違いも甚だしいと感じて居たたまれなくなった。そして、そのように認識すると出発点になった惑星の存在も許せなくなった。
そこで、ロープは命令を放棄し、独断で旅を中止した。無為に宇宙空間を漂い、先端は二度と惑星に帰還しなかった。
目次(超短編小説)