屋上を目指す | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 高所恐怖症なので本来ならば高層ビルの屋上などには行きたくないはずなのだが、どういうわけか、時として私はわざわざ関係者以外の立ち入りが制限されていない建物を探す手間を掛けてまで高い屋上を目指す。

 自分でもその行為の理由は説明が着かない。ひょっとしたら、長期間に渡って敬遠にしていると危機感が希薄になっていくので、実際に足を運んでみて危険の度合いを見定めてみたくなるのかもしれない。或いは、心の奥底では恐怖との葛藤によって特殊な快感を得ているのかもしれないし、それとも、無意識に自身に対する罰を求めているのかもしれない。

 屋上に行ってみると、その度に恐怖心が克服できていないという事実を思い知らされて意気消沈させられる。ひどく頼りなくて居たたまれない心境になる。住み慣れた日常から追放されて縁もゆかりもない異世界に身を置く羽目になったような気分に陥る。空間全体が不安定に歪んでいるように感じられ、屋上の面積が縮小と拡大を繰り返しているような気がする。

 そして、いつも私は後悔しか感じない。どうして来たのだろうか、と自責するのである。しかし、すぐには立ち去らない。私は屋上に佇んだまま自分自身に対して反省を促す。もう二度と訪れるな、と言い聞かすのである。その懇々とした説得は屋上への来訪が繰り返される度に長引いていく傾向にある。

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