夏期用パジャマ | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 本格的な夏が訪れる前に馴染みの服屋へ赴くと店員が新素材の生地で出来たシャツを勧めてきた。一見したところ何の変哲もない布だと思われたのだが、手に取って感触を確認するように促されたので言われた通りに指先で触ってみると液体の流れが感じ取れたので意外な気がした。店員の説明によると、生地表面の微細な毛が人体の熱に反応して蠢き、それが水流に似た感触を生み出すという事だった。そして、その生地で作られた衣服を着れば常時プールに浸かっているような気分を味わえるので夏場の炎天下であっても涼しく過ごせるはずなのだった。
 
 とても気に入ったので私はその生地で出来た衣服を何種類か購入した。シャツだけではなく、肌着やパンツまで揃えた。しかし、パジャマまで購入したのは早まった行為だったかもしれない。このところ私は夢の中で頻繁に溺れているのである。水が並々と張られた浴槽みたいな容器が現場になる場合が多い。しかも、どうもその窮屈な六面体の空間は蓋が閉じられていて密封されている様子である。上部に空気が溜まっているが、それは微量である。必死に暴れてみるのだが、どうにもならない。もどかしくて仕方ないのだが、そうこうしている内に酸素が薄れて窒息しそうになる。目覚めてみると全身が汗だくになっている。まったくもって不快であり、涼しいどころの話ではない。
 
 現実の私は金槌ではないのだからプールや海ならば問題なく自在に泳ぎ回る自信があるのだが、なぜか狭い空間にばかり閉じ込められるのである。私としてはそれが理不尽に思われて仕方ない。それで、今年の夏は海水浴に出掛けてみようと考えている。もう何年も海を見ていないのである。壮大な水平線を眺めれば夢に出てくる状況も一変するような気がするのだ。私が住んでいる街からは遠いが、仕方がない。睡眠の度に溺れるのでは気持ちが安まらないのである。


「パジャマ」関連

夏期用パジャマ
冬期用パジャマ
パジャマと靴

目次(超短編小説)