砂浜で加速 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 海岸を歩いていく。靴を脱ぎ、素足で砂を踏み締める。晴れていて陽光によく照らされているので温かくて気持ちいい。試しに波打ち際まで行ってみるが、やはり水はまだ冷たい。海水浴に適した季節ではないのである。
 
 私は両手に一足ずつ靴を持ったまま海辺を散策する。砂浜には小高い丘のようになっている場所がある。頂上からの眺めを見たくなり、その砂丘を登っていく。なかなか傾斜がきつい。砂はキメが細やかで、やわらかい。膨大な量の粒子が押し合いへし合いしながら指の隙間を擦り抜けていく感触が非日常的で面白い。試しに立ち止まると足首まですっぽりと埋もれていく。
 
 沈み込みが止まると、今度は肉体全体が直立した姿勢のまま砂丘の傾斜をゆっくりと滑り落ちていく。エスカレーターのような具合である。私は愉快な遊戯を発見したような気持ちになり、海岸の方へと振り向いて直立したまま滑り続ける。しだいに加速していくが、バランスを崩さないように注意する。ちょっと恐いが、スキーの直滑降の要領で体勢を整えれば問題はなさそうである。やがて傾斜が緩やかな場所にまで到達したが、それでも減速はしない。両足を思い切り踏ん張れば停止できるかもしれないが、そうすると摩擦熱で足の裏が火傷するかもしれない。かといって自発的に転倒する勇気もない。
 
 それで、私はそのままの勢いを保ったまま冷たい海中に飛び込み、波と真正面から何度も衝突したところで遂に停止する。慌てて海面に顔を出して周囲を見回すと陸地がかなり遠いので愕然とさせられる。仕方なく、やはり海水浴に来たのだと強引に納得しておく。靴をいつの間にか紛失しているという事に気付き、ちょっと落胆する。

目次(超短編小説)