爆弾スープ | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 友人と一緒に入ったレストランの献立表に爆弾スープというメニューを発見する。なかなか物騒で奇を衒った名称である。友人としばし議論を交わし、おそらく辛味が効いた汁物であろうという推測で意見が一致したのだが、好奇心を刺激されて現物を賞味してみたくなり、二人でそれを一品ずつ注文した。
 
 しかし、ウェイトレスが運んできた白濁色の液体はまったく辛くなかった。根野菜と乳製品の穏やかな風味があった。不味いわけではなかったが、予想が外れたので私達は釈然としない気持ちでスープを口に運んでいた。爆弾スープという名前の由来が不明であり、その正体がわからない内は食事中であっても片時も油断は許されないと感じていた。私達は一口ずつを慎重に味わっていた。
 
 ふと、私は容器の淵で幾何学的な紋様を描いている構成物が一つ残らず爆弾を表しているという事実に目が釘付けになった。そろそろ食事が終わろうかという時分だった。その瞬間まで友人も私もまるで認識していなかったのだ。しかも、友人はまだ気付いた様子ではなかった。私は教えようかと思ったが、あまりにも馬鹿らしい答えなので言及がためらわれた。私自身、失望感に襲われて軽い虚脱状態に置かれていたのだった。
 
 どのような言葉で伝えるべきか悩んだが、結局のところ店を出て道端で別れる寸前まで切り出せなかった。そして、その情報を耳にすると案の定、友人は当惑した表情を浮かべたが、食事中に報告するべきであったと私を非難してきた。悔しそうな顔色だった。そんなわけで、あの容器の紋様を確認する為だけの目的で後日再び一緒にあのレストランまで行って爆弾スープを注文するという約束をさせられる羽目になった。
 
 そして、後日になって判明したのだが、あのレストランで爆弾スープを注文すると爆弾の絵柄が描かれた容器が出され、笑顔スープを注文すると笑顔の絵柄が描かれた容器が出されるのだった。他にも献立表にはずらりと奇天烈な名称のスープが並んでいたが、もちろん内容物はすべて同一だった。そういう趣向の店なのだった。

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