あんこう | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 ぽっかりと口を開け、夜道の暗がりに身を潜ませて人間を待ち構えている。このところ通行人が少なくて不漁が続いている。一人も呑み込めずに腹を空かせたまま寝ぐらに帰還する夜も珍しくない。誰かが興味本位に近付いてきた瞬間を狙って頭から丸呑みしてやるつもりで額から突き出た発光体の疑似餌を小刻みに振っているのだが、ひょっとしたら過去に好き放題に乱獲を行ってきた影響で人間の側でも私の存在を警戒するようになっているのかもしれない。或いは、単純に個体数が減ってきたのかもしれない。いずれにしても、そろそろ漁場を移動するべき潮時が来ているのかもしれない、と私は考えている。もはや、従来の縄張りに縛られていては空腹を満たしていけない。どこか別の集落へ移住しようかと思っている。どうせなら人間が大勢住んでいる場所が望ましい。かつてのように思う存分、食事を楽しみたいのである。

 そういえば、この集落でもたくさんの人間が暮らしていた頃は夜になっても道路や家屋に光が満ち溢れていたように思われる。であるならば、夜陰に目を凝らし、少しでも地表が明るくなっている方角を目指して移動していくべきであろう。私はそのように考え、夜になってから縄張りを抜け出した。

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