夢を贈る | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 友人が長期の宇宙旅行に出掛けるので、私は彼が長旅の間になるべく退屈しないようにと思い、自分が見た数十年分の夢を餞別として贈呈した。すると、彼はそれを受け取ってから同じ分量の夢を私に贈り返してきた。我々は互いの夢を交換し合ったのだった。

 それ以来、私は数十年間にも渡って睡眠を取る度に彼の夢を体験するようになった。最初は違和感があったが、直に慣れて人格上の境界線を感じなくなった。元々からして気が合う仲間同士だったのであり、似たような環境の中で生まれ育ってきたので親和性が高いようだった。

 ただ、ある日を境にして徐々に私自身が夢の中に友人として登場する頻度が高まってきたので、再び違和感が増大して居心地が悪くなっていった。それに、このまま彼の夢を見続けると心理面での影響を強く受けて最終的には自分まで宇宙のどこかに旅立つ羽目になるのではないかという懸念を抱いた。私はこの惑星に大切な家族を住まわせていて愛着を持っているつもりなので長期間に渡って家を留守にする状況などは本来ならば考えられないはずであったが、それでいて広大な宇宙空間に対する憧れの念が芽生えつつあるという新たな心境の変化もしっかりと自覚するようになっていた。

 葛藤の末に私は彼の夢を今後一切見ないでおこうと決意した。しかし、そうすると途端に寝付きが悪くなった。どうも脳が夢の生成方法を忘れたようで、睡眠しても失神と同じような効果しか得られなかった。眠ったという自覚が生じないので覚醒している間もずっと意識がぼんやりとした状態になるのだった。

 仕方がないので私は大昔の自分自身の夢を再生させる事にした。しかし、そのせいで最近では月日が流れているという実感が希薄になってきている。平凡な日常生活があまりにも淡々と続いていく。昨日も今日もまるで代わり映えがない。あの友人は百年以内に帰還すると話していたが、私はその日が実際に来る事は永遠にないと予感している。

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