電話が鳴る | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 電話が鳴っている。誰かが鳴らしている。誰であろうか、と考える。しかし、私の脳裏には誰の顔も思い浮かばない。まったく見当も着かない。一人の候補者もいない。私は起こるはずがない現象を見せつけられているのである。気持ちが激しく動転して不安に駆られる。電話が鳴るわけがないと考える。しかし、現に鳴っている。鳴り止まない。瞬間的な逡巡の後に私は逃亡を決意する。自宅から飛び出す。全力で荒野を走り、ベル音が聞こえない場所まで充分に距離を取る。見晴らしが良い丘の上で足を止めて耳を澄ます。何も聞こえない。呼吸を整えながら自分のちっぽけな住居を見る。他に建物はない。見渡す限り何もない。ただ、荒れ果てた野原だけがある。地平線の彼方まで広がっている。私は岩の上に座り込む。電話が鳴るはずがない、と考える。事実誤認であると結論付ける。しかし、しばらくは帰宅したくない気持ちである。それで、何一つ荷物などは持っていないが、このまま旅に出掛ける事にした。

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