休日、ベッドに寝転びながら仕事を辞めたという仮定で想像を弄ぶ。毎日の通勤も、職場の人間関係も、明日からは自分の人生に一切の関わりを持たないものとして考えてみる。
ベッドの上で私は大きく両腕を広げる。天井を見つめながら深呼吸を繰り返す。空気が美味しい。
意識が日常という檻を逸脱して大らかな天空へと羽ばたいていく。目前に広がる可能性を実感して胸が躍る。昨日までの自分自身が随分とちっぽけな存在に見える。一瞬にして距離が開いている。
私は空を舞うまま肉体を動かさず、いつまでもベッドに寝転んでいる。自分という存在がすっかり融解し、蒸発して拡散したように感じられている。あまりにも漠然とした有様であり、確固とした形状は失われている。ただ、どこへ向かうでもなく、ひたすら、ふわふわと気ままな空中浮遊を続けている。
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