春の眠気 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 「いよいよ春めいてきましたね。私は春が来ると眠くなります。動物達は冬眠から目覚め、草は芽吹き、陽光は眩しくなるというのに、どういうわけか意識がぼんやりとしてきます。不思議なものですね」

 「日差しが眩しくなるからこそ眠くなるのではありませんか?日の出の時刻が段々と早まってきていますからね。我々が十分な睡眠時間を取っているつもりでも、窓から差し込んだ朝日が瞼に触れているせいで安眠が妨害されているのではないでしょうか」

 「だとすると、就寝時刻を早めて日の出に先んじて目覚めるように生活のリズムを変えれば睡眠不足を嘆く心配はなくなるのでしょうね?」

 「おそらく多少の効果はあるでしょうね。ただ、基本的に今は気候が穏やかですから睡眠があまりにも心地良い体験になりがちです。本能は快楽を求めますから中毒症状のように眠気を欲して止まないという可能性も否定はできません」

 「つまり、安眠を妨害されれば睡眠不足は解消するというわけですね。であるならば、窓から差し込む朝日がその役割を充分に果たしているのではありませんか?」

 「そういえば、そうですね。なかなか釣り合いが取れているので感心させられますね」

 「では、なぜ眠くなるのでしょうか?」

 「きっと、気のせいですよ」

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