雪の音 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 「雪は静かなものですね。ふわりと着地して音を出さない。なんとなく違和感あります」
 
 「雪は音を立てるべきでしょうか?しかし、あまり騒々しいと夜も寝付けないでしょう?だとすると、今のままで結構なのではありませんか?」
 
 「私としても別に現状に対する不平を述べているつもりはありませんよ。ただ、なんとなく不自然であるという印象を抱いたので、率直にその欠落感を表明しているまでです。なぜ着雪には音が伴わないのか?この世界の作り手が用意し忘れたのではないか?或いは、睡眠不足に陥らないように人間の聴覚がその音を無視するように設計されているのか?そのような問題について考えていたのです」
 
 「雪は柔らかいのですよ。冷たくて人肌を縮ませるので硬いような印象を持つかもしれませんが、実際には綿のように柔らかいのです。綿を雲から地面に落としても音は立てないでしょう?それと同じ現象ですよ」
 
 「それならば液体である雨の方が柔らかいはずでしょう?」
 
 「おそらく雪や綿は穴が多いので体積の割には軽量で衝撃を吸収し易い構造になっているのでしょう。雹や霰ならば堅くて中身が詰まっていますから着地の瞬間に音を立てますよ」
 
 「それは雹や霰の音でしょう?私は雪の音を想像したいと思っているのです」
 
 「もしかすると、音は立っているのかもしれませんね。しかし、その微かな空気の振動さえも知覚できるようになると騒々しくて安眠の邪魔になるでしょうから私はやはり遠慮しておきます」
 
 「そうですね。私も想像するだけで、実際に聴覚を改造したいかと問われれば、おそらく躊躇するでしょう。やはり夜はぐっすりと眠りたいですからね」
 
 「そして、朝になって窓の外を見遣ると辺り一面が銀世界に変わっていて驚かされるのですね」
 
 「冬ですね」

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