目から火花が | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 浴室で頭髪を洗っていると肝心の洗浄されている箇所が直接視認できないという状況がもどかしく思われる時がある。この場合、頭部を胴体から取り外すだけでは解決策とはならない。なぜならば、その場合も洗浄されている箇所は見えないからである。
 
 より根本的な問題は眼球が頭部の内側に位置していて、そこから窺うように外部世界を覗き見ているという構造にこそあるのだろう。つまり、頭部と眼球を分割させるか、完全に切り離さないまでも視神経のコードを延長させるなどの改造を施し、より自由度が高い関係性を持たせる必要があるのである。
 
 二個の眼球を肉体の左右に位置する棚とかに配置しておき、そこからの視野に頼りながら頭部を洗うという状況になるわけだが、その場合、見える世界は今よりもずっと立体感が強調されるのだろうか?ひょっとして分裂して二つの世界が同時に現出したように認識されるのだろうか?いずれにしても、鏡を確認しながら顔面に化粧を施す作業と同様に、慣れて熟練するまでには長期的な訓練が必要になるのではないか、と思われた。
 
 或いは、誤って視神経のコードに指が引っ掛かった場合などに迸る痛みの距離が現状の比ではない事などに思いが至って反射的に身を竦ませた。その瞬間、二つの眼窩から鋭い光彩を伴う長細い痛みが浴室内の空間に凄まじい勢いで射出されていくという視覚的なイメージが脳内に想起され、ふとテスラコイルによる放電の様子が思い出された。

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