ある日、その建築物に一切のドアが見当たらないという事実に気が付いた。それはただの塊だったのである。外周のどこにも入口がない。窓もない。内部空間はあるのだろうか?少なくとも滑らかな壁面は頑丈そうな素材で出来ている。誰が何の目的で造ったのだろう?なぜ存在し続けているのだろう?どのような経緯があって住宅街に紛れ込んでいるのか?どうして民家に似せてあるのか?そして、自分以外に果たして何人がこの奇矯な物体を知っているのだろうか?色々と疑問を抱いた末に、私はちょっとした期待を込めて壁面に耳を当ててみた。しかし、何も聞こえなかった。
今もその物体は自宅の近所に建っている。相変わらず出入り口はない。所有者が誰かも知らない。
目次(超短編小説)