ゼロカウント | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 未だ人類文明が完璧な予知を可能にしていない時代において気象予報士という職業に就いていると他者から頻繁に同じような質問を受ける。
 
 「明日、雨が降る確率はどれくらいなのでしょうか?」
 
 まったくもって未熟な時代に産み落とされたものである。私は気象の予報を生業にしているわけではあるが、しかしながら暗澹たる気分にならざるを得ない。老若男女を問わず、表面的には雑多であるはずの人々からこれだけ似たような質問を投げ掛けられると、ひょっとして人類の思考回路自体が乏しい可能性しか秘めていないのではないか、という疑念さえ抱かされる。
 
 しかし、彼等はなぜ明日という一日がまだ始まってもいないのに降水確率を計算できるなどと考えているのだろう?明日という日は未だかつて一度たりとも訪れていないのである。そのような確率というものは本来、明日という一日が何遍も繰り返されてから統計学の手法で結果を精査して算出すべきものではないだろうか?
 
 つまり、この場合には、「雨が降る確率も、降らない確率も、目下のところ同様にまったくのゼロカウントでしょうよ」という台詞が私から彼等への誠実な回答になるのである。

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