靴の中 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 先程までまったく問題なく順調に歩行していたのだが、ふと右足の裏側に異物感が生じる。靴の中に小石が入り込んでいるような感触がある。正体は不明だが、一個の固い物体である。それがちょうど中指の下側辺りに発生している。しかも、一歩ずつ微妙に位置や姿勢を変えている様子で、時には尖った部分が接触して少しばかり痛みを感じる事がある。それでも大抵は靴下の布地が足裏の柔らかな皮膚を保護してくれている。もちろん煩わしい事には変わりないが、それでいて立ち止まってまで靴の中を調べてみようという意欲は湧いてこない。特に急いでいるわけではない。靴を脱いで内部を覗き込んだりするだけの行為に大して長い時間が掛かるわけがない。ただ、いつの間にか靴の中に出現したその物体が、同じようにいつの間にか消失してくれる事を期待しているのである。つい先程まで存在さえ感じていなかったのであるから、靴の中にはその物体が大人しく隠居できる場所が今も空いているに違いない。
 
 そして、しばらくは右足を着地させる度に淡い期待と失望を交互に味わっていくわけである。おそらく飽きる頃までには消えているのではないだろうか?そんな気がしている。或いは、その感触に慣れ過ぎて意識しない状態になる方が早いだろうか?

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