「見てみ。あそこにデカいケツの女が歩いてるやろ?あの女の中には、まぁ確実に、人間が入ってる。それと、あの禿げたオッサンの中にも人間が入っとる。実際、どんな奴等かは知らんけどな。それから、あのトラックが見えるか?たぶん、あれには運転してる奴が乗ってるはずやろ?その誰かさんの中にも人間が入ってる。俺にはそんな確信があるんや」
「お前、気色の悪い妄想は止めとけや。あんなもんの中にいちいち人間が入ってるわけないやろ。あれは大方、風景の一部や。言うていれば、壁画の人物像みたいなもんや。そんなもんに話し掛けられる可能性があると考えただけで背筋がサブなるで。そんな事が現実に起こるんやったらアスファルトかて喋るし、お日様も笑うんちゃうんか?お前も考えてみい。もし自分の耳が好き勝手に話し始めたら騒々しいて仕方ないやろ?そやから、おかしな想像して俺に打ち明けてくるなよな」
「確かに自分の耳が話し始めたら鬱陶しいな。それはお前の言う通りやわ。でも、俺の耳は喋りおった事があるで」
「何を言いおった?」
「さあな。俺は耳の言葉なんか解さんよ。これでも人間の端くれやからな。それと比べると、いくら自分の一部ではあっても、相手は詰まるところ耳でしかないわけやからな」
「そらそうや。俺等こそ人間やからな」
「人間様万歳やな」
「人間様万歳」
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