幾つもの瞬間 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 例えば、恋人と微笑みを交わしている最中、
     交通事故に遭う間際、
     卒業式の数日前、
     約束の時刻に遅れそうな場合、
 或いは、産まれて物心が着いてから死亡するまでの間ずっと、
 人々は時間が止まってくれるようにと、切実な心境で何度となく希求していたのだった。

 実際、いつでも時間は停止していた。まるで巨大な写真のように、立体的な空間の中で全ての事物が完全に動作を放棄していた。そのように最短の長さに区切られている時間は、一枚ずつがかなり薄っぺらなので、注意深く覗き込めば裏側の様子さえも容易に観察できるのだった。

 しかし、それらの停止した時間にも、次の展開となる一瞬はほとんど例外なく用意されていた。
 しかも、その一瞬の裏側にも、さらに新しい瞬間が連綿と待機しているはずだった。
 そして、それらの薄っぺらな時間が幾つも重なり合うと全体的な透明度が途端に低下するのだった。

 かくして恋人達の感情は揺れ動き、
     歩行者は自動車に激突され、
     卒業式には遅刻し、
     産まれて物心が着いてから死亡し、
 或いは、産まれて物心が着く以前に死亡する場合もあり、
 人々は時間が止まってくれるようにと、切実な心境で何度となく希求しているのだった。

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