こちら相変わらずご無沙汰しております。主宰の山田です。まずは大変遅くなりましたが「矢と豆~Like a Star,new-one~」が無事終演しました。ご来場頂いた全てのお客様、ご協力頂いた全ての皆様に感謝です。

さて今回の「矢と豆」いかがでしたでしょうか?まず大きくいつもと違うのは、短編三つのオムニバスだったということですね。なぜ短編集にしたのか?劇中明かされた通り、「矢と豆」は「短」のそれぞれの部首。Like a Star,new-oneは、Like a(まるで~のように)Star(星),new-one(新一)という訳でまるで星新一のように。まとめると「今回は短編集だよ」というタイトル。拡大解釈すると「人生なんてのは、まるで星新一のショートショートのように短いものの連なりなんだ」というタイトルだった訳です。出会ったり別れたり、場が変わったり面子が変わったり、様々な理由で人は新たな物語を紡いでいく…一つ始まっては一つ終わり…一つ終わってはまた始まる。最後に辿り着くのは出会いか別れか…ど~っちだ?…と、そんなコンセプト。短編集というフレームで切る事により人生そのものの俯瞰視に挑む…劇場とお芝居と年月の関係すら少し触って、夢と現、物語と現象を往来している作品。転換の画がわりを素早く大きくすることで、人生の場転のあっけなさをも表現したかった。これが、稽古終盤、稽古場での芝居がまとまった頃に固まった作品コンセプト。

でもね、そんな事は後から考えて、やりながら構築していった事。実は最初の動機は案外消極的なものだったんです。昨今オムニバスという形式が増えているなんて事はつゆ知らず、単に「スケジュール的に、新作を書き下ろすのがキツい」という理由がまずありまして。だったらやるなと怒られそうですが、そうです、最初は今年の下半期は公演を打つ予定がありませんでした。そんな中、劇団MTGでも「やっぱりやった方がいいんじゃないか?」という意見が上がり、お客様からも多くの問い合わせ・要望を頂き、そんな中でアトリエファンファーレ高円寺さんが「山田ジャパンさんに公演をやって貰いたいんですけども」と打診して下さったりとか、事柄が重なりまして。「じゃあ、やるか」と。ただし、新作をまるまる書き下ろすのはどうしても厳しい。それと元々、前の挨拶に記したように僕が演出家として「再演童貞」である事も気になっていた。ポジティブに再演に挑戦したい気持ちがあった。という訳で、再演二本、新作書き下ろし一本の短編オムニバスという形式が定まった訳です。

最初はとても難しかった。初めて尽くしだし、なかなかいつものリズムでは作れない。過去作品と書き下ろし作品のバランスイメージが取れずに苦しむ。執筆も苦しかった。これはエクスキューズに聞こえかねんのであまり言いたくないけども、稽古中はテクニカル的な援護射撃は美術プランのみで、あとは小屋入りまでゼロに近かった。最初からそういうタイトな中でのオファーだったのでね。だからこれは各セクションがどうこうでは無く、公演プランニングに無茶があったということ。平たく言うと、急にやることになったから、団体側の問題。結構、公演の成功の道筋をイメージするまで時間がかかったかな。「こうこうこうなれば成功する」という道筋のイメージがなかなか出来ない。でも、しぶとくやってる間に段々と解ってくる。ああそうか、六年前と三年前と現在に作るもののテイストが違うのは当たり前か、と。それらをバラに詰めていった先にあるバランスを作るのが正解か、と。「違う」という事を前向きに捉え始める。そしたら三つ目の「肯定否定グラデーション」もスッとイメージがついた。違うことを強調すれば良い。例えば最後のマンションの登場人物には、逆にそれぞれお芝居の性質を変えさせて「違う物語の登場人物たちが、一同に会したように演技の質に差を出して」と演出したり。この辺りで完全に楽しくなっている僕。楽しんで演出しだしたら、それはもうこっちのもん。そこからは早かったです。そんな風にして、小さな規模で、客演さんも気心が知れた方で作り上げていったのが今回の公演でした。大きな収穫があり、お客様にも多く愛され、とてもとても好きな作品になりました。

もう一つの大きな要素としては、自分がガッツリ出演したって事でしょうかね。これは特に大きな意味は無く、単に「身内でやりくりした」だけの事でした。案外お褒め頂いたりして「お?俺もまだまだいけるか?」なんて気には…残念ながらなってません。基本的には廃業スタンスです。でもそうですね…結構喜ばれたり賛辞を体感すると、ひょっとしたら「山田ジャパンでだけ…たまに…」くらいの気持ちにはなってるかも。それくらいでいます。ほんの少しでも「ここでしか観れない」みたいなのが引きになってくれるかも知れませんしね。劇団にとってそれがプラスなら、やってみようかな。またゆっくり考えます。いずれにせよ、座組みの一体感がとても強く、僕らが僕らである事を強く感じられた、劇団の絆が深まった公演でした。皆様、誠にありがとうございました。


さて…この事を書きますかね。これでも作家の端くれなので、文章を書く事で、何かの想いを腑に落とすという事はよくあります。書きながら、その出来事を消化して、刻み、気持ちを確かめ、染み込ませると言いますか。だからこそ…書くのが嫌だったんですけどね。書いたらいよいよお別れみたいでさ……今井洋介くんが亡くなりました。何でも23日だってね。僕らの楽日じゃないかよ。何だか恐ろしいよ俺は…一つ終わって始まって?そんなリンクはいらん。もしかしてあれかい?神様がたまにやる「死に触れて生を意識せよ」の訓示かい?だとしたらそれは選択ミスだよ神様と。俺はいっつも生や死を身近に意識してるし、そんな事は余裕で知ってるから彼を持ってくなよと言いたい…

今井くんとの出会いは、あまり幸福な形じゃなかった。実は今井くんは昨年春の「記者倶楽部」にキャスティングするって話があってね。当時テラスハウスの全盛期だった事もあり、頼んできたのにも関わらず何だか情報が行ったり来たりして、結果こっちが断られた形で頓挫するという悪い結果になったんですね。その時の俺「は?テラスハウスだか何だか知らねえけど、調子乗ってんなぁ」って。でね、「本人が観劇したいと言ってます、そして終演後に謝りたい」とか言ってるからさ、俺もガキなんで「じゃあ金払えって言っといて」と制作に伝えた。払って観たのか僕に内緒で招待したかは知らんけど、終演後にマネージャーさんと挨拶に来る今井。デカい体でキラキラした目でレッドシアターの脇っちょで「作品最高でした!こんな素晴らしい作品に自分が出られるチャンスを棒にふったなんて後悔してます!本当に今回の運び申し訳ありませんでした!」と深々頭を下げる。その時もまだ「けっ、爽やかな野郎が。キラキラした目で真っ直ぐ来るのがお前の処世術か知らねぇけども、俺には通用せんぜ」とか思ってたかなぁ。しょうもないな俺(笑)でね、次にまたマネージャーさんが連絡してきて「どうにか山田ジャパンに出たい」と言ってくる。この野郎と…舌の根も乾かんうちに…こないだ頼み込んできて、それをそっちがキャンセルしたのよね?それがもうそんな事言ってくる?舐めてんな?と。マネージャーさんは本当に丁寧に「失礼なのは重々承知です。でも本人が…」としつこい。俺、取り合わず。だって周囲に示しつかないもん。

少し何も無い時間が続いて…次に会ったのが意外な場所。僕が初めて撮った映画TOKYO CITY GIRLの年末の打ち上げの席に、なぜかマネージャーと今井君がいた。聞けば知り合いがいて、少しその企画にも関わってるとの事。会場に遅れて到着した僕を見つけ、まっすぐやってきて「山田さんおはようございます!」とまたキラキラしてる。で、不器用な喋り方で、でもインタビュー受けてるイチローみたいな表情で、「前回の事は本当に申し訳ありませんでした」と真っ直ぐな瞳で言ってくる。もうそれは聞いたよ今井君、と。あと、いちいち格好いい顔で喋るの疲れない?と。そんな事を思いながらも、もう怒りが風化してるので、少し話す。「全然気にしてないよ」と。でもまだ、心を許した訳ではなく「嫌なやつじゃないなぁ」くらいの感じ。暫くしてまたマネージャーから電話。「大渋滞…駄目でしょうか」と。それがエイベックスの意志かどうかは解らないけど、とにかくそのマネージャーは一生懸命だった。少しは迷ったけども、「バリューを当てにするようなキャスティングは俺のポリシーにない」とバッサリ。そこはマネージャーも敏腕で今井くんをキャスティングする事で起こる現象を沢山話して食い下がってくるが、そこはやはりキャスティングバツイチなので「じゃあ一般の方々と一緒にワークショップオーディションに参加したら?」と厳しめの条件提示。そしたら…嬉々として来た。今井君から直で「ありがとうございます!参加させて頂きます!」ってメールが来てさ。当時割と知名度あったと思うのだけど、一般の主婦さんや、コミュ障の子とか、ニューハーフさんなんかが参加してるワークショップに参加した。そこで…完璧にやられた(笑)

「こんないいやつだったの!?こんなにも!?今までのキラキラ顔、全部ホンマのやつやったやん!俺がテラハ過剰意識状態でダサかっただけやん!最初からホンマやん、こんな分け隔てなく人に接するやつ初めてやん!ほんでから…芝居下手やなぁ!!」って(笑)

最初の自己紹介「今井洋介と言います」から始まって、何から何まで、会う度に好きになる。いい奴はたまにいるけど、ここまで飛び抜けたいい奴はなかなかいない。本当に、本当に可愛くていい奴だったんですよ。いやぁ、ほんっとに…すんごくいいやつだったんです。そこから大渋滞という舞台を通して仲間になるのに時間はかからず、全員が好きになったと思う。記者会見した後、彼が舞台に参加する事が中心となった記事が多くあがり、そのことに多少の批判もあったよ?「流行のテレビの人を使う戦略ですか?がっかりです」とかさ。でもそんなん全然気にならねーや。本当に彼がいいと思ってキャスティングしたんだから。ほんと、彼の人柄、真っ直ぐさ、平等な眼差し、なつっこさチャーミングさ謙虚さ。彼と接した全ての人が同じ印象持つんじゃないかなぁ。それこそテラスハウスの方々のコメントとかみても、僕らと全く同じ感触の今井像。そりゃあそうだ、場所や人で態度や接し方を変える人間じゃないもの。あ~…何でなのかな。何でなのかな。何でなのよ?もう駄目だ。そんな簡単に整理はつかん。ほんとにね、一緒に過ごしたのが一年足らずだなんて思えない。凄く身近に感じてる。意味不明の暑中見舞いの電話してきては「バイブスどうすか?(中略)俺、真剣に山田ジャパンに入りたいんです」だとか、ついこないだTOKYO CITY GIRLの渋谷のトークショーで急遽力になってくれた時も帰りぎわに「俺、山田さんの作品にもう一回出たいんです」と…「山田さんを親だと思ってます」と……あ~あ…何なんだよ俺は。俺ごときが何なんだよ。そう、あいつは山田ジャパンに入ろうとしてたんですよ。それをね、すぐに実行に移さずに半年以上も、日々の仕事に流されて放っておいた俺がいて。いやさ、これは自意識過剰で自分をセンターに置いたストーリーだってのは重々承知だけども。別にあいつにしたら、たまにそう思うだけで、俺と連絡取る時にそう言ってただけかも知れないけど…本当に何だかそこの後悔が酷いんですよ。ごめんな今井。ごめんな今井よ。俺はいつもこんなんなんだ。ただこれだけは言わせてよ。これは心から言うよ。誓って…そうだな、それこそ今井さながらの真っ直ぐさで言うよ。俺を含めた皆が、全員が、とにかくお前を大好きだったんだぞ~!山田ジャパンの皆全員、お前をウェルカムだったぞ~!それが証拠に皆がこのニュース知ってえら泣きしたぞ~!と割とクールなタイプのやつも泣いてたぞ~!…それだけ、どうにかして伝えたいよ。伝えたいもんだなぁ。


ありがとさん。


お疲れさん。