以前に、神頼みをして桜の命を延ばしたという伝説のゆかりの地、櫻町大神宮を訪れました。そこに一本だけ残っていた桜は、なんと"泰山府君"の名を冠していました。
泰山府君というのは、中国の五岳のひとつ泰山の神様のことです。
お気づきの方もいらっしゃると思いますが、今月僕が勤める能の曲目は「泰山府君」です。今回はその泰山府君が祭祀されている場所へ訪ねました。
天台宗総本山・比叡山延暦寺
赤山禅院(せきざんぜんいん)
第三世天台座主の慈覚大師円仁様のご遺命により創建されました。京都の北東、表鬼門を守護し、また日本最古の「都七福神」のお寺でもあります。
僕が参詣した時も、七福神巡りの色紙を持っている方々がいらっしゃいました。
能「泰山府君」の謡で"そもそもこれは五道の冥官、泰山府君なり"とあります。
この五道の冥官というのは、仏教で、地獄・餓鬼・畜生・人間・天人の五世界の衆生が冥土へ行った際に、閻魔大王の裁判を手伝う役人の一人のことを指します。
そして、泰山府君は"生死"を司る神様として云われ、インドから中国に仏教が伝わる以前から厚く信仰されていました。
お寺の方に、能で泰山府君を演じるため参拝した旨をお話したところ、丁度、ご住職がお勤めが終わられた時で、ご紹介して下さりました。
思わぬ幸運で、ご住職から直々に泰山府君のことについてお話を伺うことができました。そして、能を勤めるならば、ということで、なんと門外不出の御神体、泰山府君の御像の写真を快く見せて下さりました。
そのお姿は、華やかな衣装を身にまとい、お顔は想像していたよりも優しいものでした。
衣装の肩のところに、黒い月と白い太陽が施されていたのが印象的でした。まこと、謡の"明暗二つを守護するところ"なのですね。黒・白、月・太陽、陰陽が示されております。
一般的に知られている泰山府君の絵がこちら。この写真はKBSで赤山禅院が紹介されていた時にテレビに映った絵のようです。
能では、天神という面をかけます。上の写真と同じような風貌をしています。
ご住職は「泰山府君様は命を司る神だから、きらびやかな姿をしている」と教えて下さり、続けて「是非そのようなイメージを持って演じてください」とも仰って頂きました。
心して勤めさせて頂きます。
最後に、泰山府君様のまた別のお顔をご覧ください。こちらは福禄寿神。ずいぶんと優しい御尊顔。
僕も頭がこんがらがってしまいますが、赤山大明神=泰山府君=福禄寿 ということのようです。
寺院内の掲示物の説明書きにも"天に在っては福禄寿神様ですが地上に降りては泰山府君様”と記されていました。
お寺の方に尋ねると、「泰山府君さまも福禄寿さまも、赤山さまの別の顔であって、どれも同一体の神様だと認識している」と教えて頂きました。
今度の能の「泰山府君」という曲では、この泰山府君は後シテ(後半)で、そして前シテ(前半)は櫻町大神宮を建立した桜町中納言の邸宅におりたつ天女を演じます。
二つのキャラクターでは随分違いがありますので気を付けて演じ分けたいと思います。
おしまい
ごあんない
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