岡山に行って林ぶどう研究所の林慎悟さんとじっくり種苗法改定の問題について話し合うことができました。
 
長くなりましたが、最後まで読んでシェア拡散していただければありがたいです。
 
林さんは大変立派な方で、人間的にも魅力ある人です。
 
ほぼ20年間ぶどうの新しい品種の開発に一人でひたすらに打ち込んでこられて、”マスカットジパング”の品種登録に成功されたのです。
 
見せていただきましたが、マスカットオブアレキサンドリアより一回りも二回りも大粒のなんとも美味しそうな品種でした。
 
奥さんも一緒でしたが、他所で働きながら長い間彼を支えてきたようです。
 
私の記憶に間違いがなければ、彼は開発から登録申請までの間に 3000万円から4000万円は費やしたとのことです。
 
農水省の前知財課長が品種登録に要する費用は数百万から数千万だと言われましたが、本当にその通りだと思いました。
 
こうした日本の農業のために真面目に取り組んでいる育種家や苗木を扱う小さな種苗店の人たちが報われるような種苗法でなければなりません。
 
また一方では、彼の話によるとぶどうの栽培農家も今ではかつての5分の1にまで減少したとのことです。
 
また苗木を購入し植えつけても、当たり前に実がなるのは2、3年かかり、その土地に合ってやっていけると確信できるには5年はかかるそうです。
 
果樹栽培農家は大変なリスクを背負って新しい品種の栽培に取り組んでいるのです。
 
これまでぶどうの栽培農家は、一本5000円程で苗木を購入し、それを挿し木等で増殖し、畑に合った優良なものを選別しながらなんとか生計を立ててきたのです。
 
このように農家が自家増殖を当然のものとしてきたことを考慮しながら、ユポフ条約による育成者権者の利益を守る為両者のバランスを取ったのが現行の種苗法です。
 
彼が面白い提案をしました。
 
『私の苗木を栽培した農家がそのぶどうを販売できるようになったら、その代金の何パーセントかを私がもらうことにしたらどうでしょうか。
 
海外ではそうしている国もあり、日本でも外資系の種苗会社はそうしてると聞いたことがあります』
 
と。
すごくいい提案です。
 
それならば現行の種苗法の下で 育成者権者と種苗購入者との契約でできます。生産者にとってもいい話だと思います。
 
私の話も林さんはよく聞いていただきました。
 
農水省が説明している日本の優良な育種知見の海外流出を防ぐための改正とする話は、林さんのような育成者の権利を守る話とは全く関係ないのです。
 
シャインマスカットは農水省の育種機関である農研機構が2006年に品種登録したものです。
 
ユポフ91年条約では6年以内にその国(韓国等)で育種登録がなければ、その国ではシャインマスカットを自由に栽培して日本への輸出も合法なのです。
 
いちごの"あまおう"でもそうです。ただ農水省が登録を怠ったからこういう事態になっただけです。
 
山形県では、平成17年に県が開発した優良なサクランボ「紅秀峰」の苗木がオーストリアで大規模に栽培されたことがありました。
 
当時日本に輸入されることを危惧した県は直ちにオーストラリア人を刑事告訴 、輸入差止め請求をしました。
 
裁判では山形県の主張が認められて、登録期間が終了した後3年間は日本に果実を輸入しないことで合意し、刑事告訴を取り下げて 和解が成立したのです。
 
中国に対しても、農水省は平成18年に「中国における育成者権取得・権利侵害対策マニュアル」を発表して、刑事告訴や民事の訴訟、損害賠償の請求を薦めています。
 
現行の種苗法の21条4項にそのことは明記されているので読んでください。
 
騙されてはなりません。
 
農水省の「日本の優良な品種の海外流出を防ぐために種苗法の改定が必要だ」とするのは全く理由にならないのです。
 
林さんも理解頂いたように思います。
私にも林さんの育種に対する思いに心を打たれました。
 
小さな育種家 小さな種苗店のために 私もこれから尽力させていただきたいと思います。
 
この対談は林さんが動画にしていただきましたが、私も原村政樹映画監督に撮影していただきました。