"

冬の山並みはいつ見ても、薄く透けてきた初老の男のザンギリ頭に見えるのは、私だけだろうか。
単調な茶褐色の山肌に、ところどころ山桜の白い花が浮き立って見える。
四国、愛媛県の宇和島に向かう高速道路の山中。
よく見ると、山々の木々が、かすかに色ついてきている。
新芽のうすい黄緑色、まだ赤紫の蕾、微妙な色彩を織り成して、いかにも山々が微笑みを始めたようだ。
早春。
今年は、まだ朝夕の寒さには厳しいものがあるが確実に春はやってきた。
今回、私は宇和島に重油やガソリンに頼らない電動漁船があるのを聞いて、なんとしてもこの目で確かめたくてやってきたのだった。
自動車はCO2を排出しないエコ・カーと称して電気自動車の時代を迎えつつある。
かねてから、私はひそかに漁船にも燃費を大幅に節減できるエコ・シップがあっていいのではないかと考え、水産庁に電動船の資料を求めていた。
最近のリチウム電池をなど蓄電池技術の進歩には目を見張るものがあって、必ず近い将来、進化した蓄電池による電動漁船の時代が来ると、私には確信に近いものがあった。
なんとなく、私には幼児のころの思い出、よくオモチャのボートを風呂に浮かべて遊んでいたことが鮮明に蘇ったのだ。当時は単電池、一個でボートは水中でプロペラを回しながら、面白いように走りまわる。
そのようなことが、私には簡単にできそうな予感があった。

なんと宇和島では、愛媛県がEVプロジェクトをたちあげて、すでに船外機で漁船の電動化が実現していたのだ。
驚いた。
養殖などに使われる船長7メートルほどのFRPの漁船に、よく見慣れた船外機がつけられている。
異なるのは船外機の上部の部分エンジン部分が取り外されて、そこにコイルを巻いたモーターが取り付けられているだけだ。
モーターも中学時代理科の実験室で、自分たちで作ったモーターを大きくしたものに過ぎないのでは。
愛媛県の部長さんが私に自慢げに語った。
「発想の転換ですよね。エンジンのような故障もないのでメンテナンスフリーです」
さらに、このFRP漁船には燃料タンクが外されてそこにはバッテリーが組み込まれている。
このバッテリー(蓄電池)に8時間(300ボルト充電で4時間)充電すれば4時間は作業に使えるそうだ。

早速、電動漁船に試乗させてもらった。

湾内を音もなく滑り出す。ブワッとエンジンを始動するときの騒音も、煙も一切出ない。
排ガス特有の匂いも一切ない。
船は波をけたたて、かなりのスピードで走り出す。
快適だ。時速も15ノットのスピードだから素晴らしい。
私は開発したアイティーオー株式会社の伊藤社長に心底感謝して次のように語った。
「是非、4,5トンの小型の漁船もモーターとバッテリーで置き替えられるようにしてほしい。地球環境に優しい漁船ができていけば、農水省としても助成を検討したい」
そうなれば、現在養殖などに使用されている船外機付のFRB漁船だけでも、燃費が年間45万円はかかるところが、8万円ですませることができ、CO2も80%削減できる。
国内10万隻の船外機付FRP漁船だけでも、モーターとバッテリーに替えたら、それだけで19万トンのCO2の排出ができる。それを取引の対象にして売却することもできるのではないだろうか。
「今年は、船外機だけでなく沿岸の小型漁船でも試作を始めます」
夢は広がる。アイティーオー会社も愛媛県も張り切っている。
是非夢を実現したい。

"