衆議院議員選挙12月16日で無念にも惜敗してしまったが、あけて18日、早速に雑誌『マスコミ市民』から取材を受け、TPPについて語った。今後も政治家山田正彦の最も重要なテーマと考えているので、掲載誌から転載させていただいた。

『マスコミ市民』2013年1月号
発行 NPO法人マスコミ市民フォーラム

総選挙の争点にならなかったTPP問題 
これからどうなる~山田正彦前衆院議員に聞く
TPP問題で、山田正彦氏インタビュー 2012・12・18

山田正彦前衆院議員は、民主党政権で農林水産大臣を務め、大臣退任後、超党派の国会議員が集まった「TPP(環太平洋パートナーシップ)を慎重に考える会」の会長として、TPP問題に精力的に取り組んだ。そして党内の民主的議論が不十分なままTPP交渉に参加しようとする野田総理大臣と対立、総選挙直前に民主党を離党、新たに立ち上げた「日本未来の会」から総選挙に出馬し、反TPP、卒原発、消費増税凍結を訴えたが、自民党候補に惜敗した。あらためてTPPが日本にとってどんな問題をもたらすのか、このままいくと、TPP問題はどうなっていくのか、総選挙から2日、落選で撤収作業の始まった千代田区・永田町の衆院第二議員会館で、山田前議員から率直な話をうかがった。(聞き手 中尾庸蔵編集委員) 

—今度の総選挙では、TPP問題は争点になったのか?
山田「私の選挙区では、争点になったとは言えないね。いや、私の選挙区だけでなく、どこでもTPP問題は、選挙民は良く分っていないんだ。今度の選挙で選挙民は、民主党には裏切られた、自民党は景気を良くしてくれるんじゃないか、という期待で投票したんでしょう。それと、自公で過半数、というメディアの予測が出てから流れが変わったね。小選挙区というのは当選者は一人ですから、勝つか負けるかしかなく、勝つ方につく、という性格があるんですよ」
—TPPというのは、そもそも何が問題なのか?
「12月3日から12日までニュージランドのオークランドで、TPP交渉の第15回会合が開かれた。非公開で、情報は中々洩れてこないが、まず、食品の安全基準で、アメリカが遺伝子組み換え食品について、遺伝子組み換え食品であることを表示させないという要求をしたようだ。また、自動車の排気ガスの基準について、アメリカの基準に合わせて緩くすることも要求したという」
—そんなことまで要求するんですか?
「24品目あるんだからね。軽自動車の分類を止めて、軽自動車の税金を低くしているのを止めろ。アメリカの車は重いからね。車検を止めろ、為替介入を止めろ、などと言う」
—円高を是正するため、日本が行う為替介入のことですね。内政干渉ではないか?
「そうだ、内政干渉そのものだ。車のハイブリット技術、低燃費の技術を無償で公開せよ、そうでないと、公平な競争にならない、だと。こんなことも日本に要求してくるんだよ」
「アメリカが最も力を入れているのは、知的財産の分野だと言われている。例えば、Aというアメリカの特許があり、A‘,A“・・・などの日本の応用技術がある場合、Aの特許に対してお金を払わなければならない。その結果、安い薬が出来なくなったりする。また、薬の処方、手術の仕方にも特許を導入、日本の医師が手術をするのに特許料を払わなければならなくなる」
—TPP問題とは、農業の問題ではないんですね?
「TPPは農業問題ではない、ということは私は2年前から言っている。アメリカでも農産物の生産額はGDPの1.5%でしかなく、日本の農産物市場を開放させてもアメリカにとって大した意味はない。それでも日本の農業は壊滅するが。TPPは知的財産権を守る基準、環境基準、労働基準などをアメリカの基準にしてしまおうというものだ」
「かつてアメリカの圧力で、大規模郊外小売店を規制する大店法が骨抜きになり、地方の商店街がシャッター通りになった。今度は、医療制度が壊される」

—米韓FTA(自由貿易協定)が結ばれ、韓国は日本より対米輸出で有利になった、と言われるが…
「私が今年(2012年)はじめ訪米した時に会ったアメリカ通商代表部(USTR)の代表補は『TPPがどんなものかは米韓FTAの内容を見ればわかる』と言い、『TPPは米韓FTAよりもさらに自由化を進めたものとなる』と述べた。そこで『TPPを慎重に考える会』では韓国からこの問題に詳しい人たちを講師として日本に来てもらい、また、こちらから人を出して米韓FTAのことを勉強した。その結果、韓国内では米韓FTAでいろんな弊害が出ていることが分かった。日本のマスコミはどういうわけか大して報道しないが」
「アメリカの基準の押し付けで、韓国は独自の司法試験をすることすらできなくなった。自動車の輸出入問題では、韓国の環境規制が弱められ、アメリカのメーカーごとに2万5千台、3大メーカーで合わせて7万5千台についてはアメリカの緩い安全基準の車をそのまま韓国に輸出していいことになった。TPPで、日本では同じようにアメリカ基準で70万台くらい入れることを要求されている。こんなことがまかり通れば、日本は独立国ではなくなる」
「ISD条項(投資者・国家間訴訟制度)というのがあって、毒素条項と呼ばれ、まさに国家の主権を侵される規定だと重大問題になっている。アメリカの企業が外国に投資し、問題が生じたときに、アメリカの企業が相手国を訴えることが出来、その解決は世界銀行の中にある『国際投資紛争解決裁判所』に任せるというもの。多国籍企業に対する裁判権の放棄で、私的な投資家利益が公的な国家主権を無力化するものだ」

—「TPPを慎重に考える会」の会長として、精力的に活動されてきたが、その活動をどう総括しているのか?
「私らの運動がなければ、日本はもっと早い時期にうやむやのままTPPの交渉に参加していただろう。その意味では、ここまで交渉に参加させないできたのは、我々の運動の力だった、と思っている」
—菅さんや野田さんはどうしてああTPP交渉参加にこだわったのか?
「自由貿易は良いことだと、単純に考えていたんだろう。アメリカの言いなり、財務省の言いなりにならないと、政権が持たない、ということかな」
—TPP交渉は、これからどうなるか?
「TPP交渉は来年(2013年)3月(シンガポールで)、5月と予定されている。日本が交渉に参加するには、事前にアメリカと話がついていなければならない。アメリカは政府の条約締結権より議会の権能の方が上なので、参加するについての問題点をアメリカ政府と詰めて解決したうえで、議会の了承を得なければならない。そして「3か月ルール」というのがあって、議会の了承を得るには3か月の余裕を持って了承を求める内容を議会に示すことになっている。今アメリカ政府と参加する上での問題点を詰めているところで、以上のような手続きから見て、3月の交渉に日本が参加するのは無理で、5月の交渉に参加できるようにするだろう」
—今、アメリカと詰めている参加の条件とは?
「3つ有って、①牛、②保険、③自動車だ。牛というのは、BSE問題の時にアメリカから輸入できる牛を生後20か月までと規制したが、アメリカの要求で最近、生後30か月まで、とした。この問題は済んだ。②保険では、日本の郵政はガン保険をやらないことになった。混合診療をどこまで認めるかでまだもめている。③自動車は、重量税を止めて、軽自動車の税を優遇するのを止めろ、と要求してきている。アメリカ車のアメリカ基準での日本への受け入れの問題もあるわけだ。まだ話はついていない」
「自民党の安倍総裁、首相になっているわけだが、安倍氏が参加を表明して、5月のTPP交渉に日本が参加、9月か10月に大筋合意、となるのではないか」
—安倍さんはTPP推進なのか?
「安倍総裁、石破幹事長、いずれもTPP 受け入れだね」
—自民党にもTPP反対は居るんでしょう?
「40-50人は反対。しかし安倍さんはTPPを受け入れるだろう」
—アメリカでは労組はTPPに反対なのでしょう? 日本は、連合はTPPに賛成している。
「まったくおかしな話だね。アメリカの場合、NAFTA(北米自由貿易協定)で、アメリカの補助金で保護されたアメリカのトウモロコシのメキシコへの輸出は3倍に急増した。メキシコの農民130万人が離農し、アメリカへ密入国するものが増えた。その結果、アメリカの失業者が急増、というつながりで、アメリカ人の70%はTPPに反対しているという。日本も、労働市場を開放して、ベトナムなどから労働者がどっと入ってきて、失業がうんと増えるよ」
—TPP参加の流れはどうしようもない、とうことか?
「最近、孫崎亨氏の『戦後史の正体』を読んで感銘を受けた。TPPもあれと同じで、アメリカはアメリカの『国益』を強引に推し進めてくる。それに対して、日本は日本の国益というか、国民の利益を守って跳ね返していかなければならない。そのためにはTPP問題の本質を国民に理解してもらわなければならない。そのために今後も力を尽くす」
「グローバル化がよくないんだ。そしアメリカでも問題になっているように、1%の金持の利益のために99%の人たちが犠牲になっている。中道、リベラルを結集して、政界を再編するしかない」
—あなたは、選挙直前に民主党を離党し、「日本未来の党」で立候補したわけだが、離党しない選択肢はなかったのか?
「TPP交渉参加に反対しません、なんていう誓約書を書いて公認をもらえますか? 消費増税凍結せよ、という主張を取り下げて、党に置いてください、なんて言えますか。ああいう選択肢しかなかったんだよ」
—政治家として、今後どうする考えですか。
「99%の人たちのために、リベラルな政党が必要だと思っている。10月16日に嘉田滋賀県知事のところへ私が訪ねて行ったのが、今回の『日本未来の党』結成の始まりだった。『未来』を立ち上げた責任もある。『未来』の発展のために力を尽くすよ。