西日本新聞の記者から電話があった。
「山田さん、県の話では、大栄丸の引き上げは無理だとのことで家族は同意したそうですよ」
私は驚いた。その2日前に生月島に行って、家族とお逢いしたばかりだったが、そのような気配は微塵もなかった。
県も対策本部を早々と解散させたと言う。
私の中にはただ悔しい思いがよぎった。
平戸沖の海底深く、今も眠っていると思われる12人の船員さんの家族の思いはいかばかりだろうかとブログにも書いた。
そのままでは済まされない。
私は次の内閣農水大臣、筒井さんと相談して党の正式な機関として「長崎漁船沈没検証小委員会」を立ち上げた。
座長に高木義明県連代表、事務局長に大久保潔重参議院議員になっていただいた。
7月3日、第二回目の小委員会を水産庁、海上保安庁、国土交通省の事故調査委員会を呼んで開いた。
そのさなか、平戸から家族の皆さんが、引き上げ嘆願の18万人の署名を集めて、陳情に上京したとの連絡を受けた。
委員会の場で、家族の皆さんの声を直接聞くことができた。
身につまされる。
「皆さん方は、県の話では、引き上げは、断念したと聞いていたが・・・・・・・」
「とんでもありません。引き上げを求めると、大栄水産は倒産して、元も子も無くなってしまう。この島に住めなくなるぞと圧力をかけられているのです。
人の命は大切なものです、船体引き上げは無理でも、遺体だけでも引き上げていただきたいのです」
と切々と訴える。

私は説明した。
「調べたところでは、第11大栄丸(網船)の沈没には漁船保険がかけられていて、新船であれば5億円だが、大栄丸は20年経過していたので、それだけで1億5000万円は代替船の費用として出るはずだ。
水産庁も操業ができるように、対策を講じると言っているので心配要らない。
そのほかに乗組員厚生共済、漁業労働災害共済約款に入っていたので、不明者一人につき2000万円は保険から出ます。
実は、もう一つ、このような遭難時の引き上げのために「船主保険」6億円に入っていました。
小委員会で、海上保安庁の担当者が、「海洋汚染、および海上災害の防止に関する法律」で、困難でない限り、船主大栄水産に船体を引き上げる義務があるので、海上保安庁が命令を発するまでも無く、引き上げはできるはずですと明言している。
ところが、「船主保険」を管轄している水産庁保険課は、官公署の命令がないと引き上げはできませんと応える。
しかし、漁船損害等保障法施行規則では「・・・・法令、その他の事由により漁船の引き上げの責任を負うことにより負担する費用を支払う」となっていて。契約もその通りになっている。
おかしいではないか。
仮に、一歩譲っても「官公署の命令と言えば、長崎県の漁業を管轄している長崎県が引き上げを船主に命じてもいいのでは」と水産庁に聞くと
水産庁は
「知事さんからの命令でもできます」と応えた。
知事も県議会議長も引き上げを国に求めている。
それでは引き上げられることになるが、一体引き上げの費用はどれくらいかかるのだろうか。
高木義明座長が、その件について国会でも質問している。
昭和61年、海洋調査船「へりおす」850トンが遭難した。
翌年には、船主の駿河精機は遺族の求めに応じて、海底215メートルから引き上げている。
海上保安庁が明らかにしたところによると、その費用は1億数千万円だったとのことである。
なんでも県の対策本部が家族に言っているように50億円もかかるはずが無い。船主保険の6億円の範囲内で十分引き上げられると考えられる。
仮にそうでないとしても、「運輸安全委員会」は今回の船舶事故について、同型の安全とされている船が、波高2,5メートルから3メートルというさほどの時化でもないのに転覆した原因について、海底に沈んだ船体を引き上げて明らかにする義務がある。
小委員会で私は声を張り上げて、
「大栄水産は引き上げに関する調査を日本サルページ会社に頼んでいるが、事故調査委員会はその報告書を入手したのか。それを明らかにして欲しい」
と叫ぶが、いまだに明らかにされない。
家族の話では、
「船主からの説明で、突然、引き上げについての調査ではなく、船体の映像を依頼したのだ」と言われて私たちも見せていただいていないと言う。
おかしい。
事故調査委員会事務局の話では、当初現地での聞き取り調査しかできないと言っていたが、運輸安全委員会は、飛行機、鉄道、船舶などの事故原因追求のための、法律上も独立した機関で、運輸安全委員会設置法18条4項では立ち入り検査の調査権もあり、「報告書」を領置する権利もある。
さらに、法22条では国土交通大臣は、調査のために船舶の引き上げを命ずることもできるようになっている。
沈没の原因を明らかにするために、国の費用を引き上げに使うこともできるのだ。

上五島、中の浦で、同じ大中型のまき網に乗っていた方が静かに語り始めた。
「山田さん、今では個室になっているので、転覆1,2分でドアを開けて出ることは不可能ですよ、まだ船室の中に眠っているのでしょう。
網だって幅100メートル、長さ1,4キロもあるのだから、あれがすでに40メートル立ち上がっていると言っていますが、2次災害のおそれがありますよ。
早く、引き上げてください」
まき網の乗組員たちも不安を隠していない。