先週、民主党の京野公子議員の応援で秋田県の湯沢市にいた。
歴史的な大寒波で、2~3メートルの雪に埋もれている。どこの家にも屋根にはしごがかけられていて、時折雪かきに励んでいる姿が見られる。
高齢者で雪かきができずに数十トンの雪の重みに家が押しつぶされたら大変だから、業者に雪かきを頼むと1回で10万円はかかると言う。
さすがに、雪国は大変だ。

講演の間を縫って雪に埋まっている山奥に案内してもらった。ここから先は岩手県との県境になる峡谷にわけ入った。橋から見下ろすと雪が舞いあがってくる。
絶壁の瀧も張り付いたままで、凍っている。真下にある深い谷も雪に埋まっていて、一筋の細い川の流れが見える。
すさまじい厳寒の極致だ。
耳を澄ますと、ちっ、ちっと小鳥たちが囀りあっている澄み切った鳴き声が響いてくる。
・・・・・ひとときの楽園を垣間見た気がした。

ここから先が岩手県、宮城県につながっている。
こうして、たまに眺める雪は綺麗だけど、この先の目に見えない福島原発の放射線の被害は依然として厳しいものが残されている。
この雪の中でまだ11万人の人が避難生活を続けているのだ。
除染もなかなか進まない。

私が大変心配していることがある。
野田総理は原発の再稼動を原子力規制庁が発足する4月前にも判断する意欲を示したと新聞は報道している。
大飯原発のストレステストの中間報告も読ませていただいたが、さまざまな未解決の問題も多く、ここで再稼動を認められる状況ではない。
それよりも大事なのは、そのまま放置されている使用済燃料棒だ。
福島の原発事故で明らかにされたように、炉は停止中ではあったとしても、4号炉の使用済燃料棒1331本は地震で壊れかけた建屋の4階プールに残されて核爆発の寸前だった。
米軍は当初からこのことを一番怖れていた。
今では建屋もいくらか補強されたとはいえ、直下型の関東大地震が来れば、寸時に建屋もろとも崩れ落ちて水がなくなり大爆発を起こしてしまうのでは。
私は地震が来るたびにこのことが心配になる。
福島の4号炉も停止中であったが一番心配されていたのだ。
それに、全国に原発58基のうち2基を除いては定期検査で止まってしまったといえ、それぞれの原子力発電所の建屋のプールに1000本から2000本の使用済燃料棒ガそのまま水で冷やされ続けている。
ちなみに、ドイツではプール式の水による冷却は危険だとして禁止されている。
恐ろしい話である。
昨年の大震災3.11から頻繁に地震が発生しているが、すでに震度3以上の地震が1万3000回を越えて発生している。
東大の地震研究所は4年以内に70%の確率で関東地方に震度7を越える大地震が発生するという予測を発表した。
関東だけでない。数年前から戻り現象が始まっている東南海の大地震もいつ起こってもおかしくない。
そうなれば、浜岡原発はすぐにでも、大変なことになりかねない。同様に北海道も、九州も危ないのだ。

知っているだろうか。秋田県のすぐ隣、青森県には六ヶ所村に使用済み核燃料の中間処理施設がある。今頃はおそらくそこも雪に埋もれているだろうが、そこもかねてから危険性を指摘されてきた。
六ヶ所村の中間貯蔵施設は、ほぼ満杯の状態で約3000トンの使用済み燃料棒と超高濃度の放射能廃液240立方メートルがタンクの中で貯蔵されている。
すでにタンクも老朽化していて、震度7クラスの大地震が北海道・青森沖で生じたら、タンクから直ちに大変な量のセシウム、プルトニウムなどが流れ出してしまう。
この超高濃度放射能廃液のガラス固化作業を一刻も早く始めなければならない。
容易に悲惨な状態が予測される。
ところが残念なことに、日本ではこれらのガラス固化作業は一向に進んでいない。

今急がれるのは、全国各地の原発基地にそのままプールに保管されている使用済燃料棒を、直ちに乾式の保管に入れ替えてしまうことだ。
事故のあった福島第一原発でもモデル的に乾式の保管もなされていた。
実は報道されていないが、その乾式保管の燃料棒は、あれだけの洪水、地震に見舞われても大丈夫だった。

後日、写真も見せていただいたが、大きなステンレス製らしい筒に入っていて横倒しになっていた。それ以来乾式の保管に大変興味を持った。
エネシフでの勉強会で、私は米国の物理学者で核拡散の専門家フランク・フォンヒッペルさんとゴードン・トンプソンさんにお聞きした。
「乾式の保管とはどうすればできるのですか」
「日本の場合はプールで使用済燃料棒を冷却して5年もすれば、取り出して乾式で保管できるのでそのほうが安全である」と話してくれた。
そうであれば、全国各地にある原発基地の5年を経過した使用済燃料棒を早く集めて、どこか一箇所で乾式の保管したほうが、危ういプールによる水の保管よりはるかに安全ではないだろうか。

六ヶ所村の中間貯蔵施設はすでに満杯で、新たな燃料棒を保管する余裕はない。
新たな中間貯蔵施設を探すにしても、福島原発の事故が生じた現在では、どこも受け入れてくれる所はないだろう。
国民は福島の事故を見て身にしみてその怖さを感じている。
今、全国にある58基の原子力発電所はそれぞれに広大な敷地を保有している。
そこに最大震度にも耐えることのできる建屋を建築して、最終処理施設ができるまでの間、自らの原子炉で生じた使用済み燃料棒だけでも乾式で保管を始めるべきではないだろうか。
原子力発電所から50、60キロ圏の住民はいつ不測の事態が生ずるか、皆が内心不安に思っている。
これだけなら、住民もこれまでのプールによる冷却よりも安心できるので同意を得られやすい。
「大地震と津波災害に強い使用済燃料棒の乾式保管施設をそれぞれの原子力発電所内に新たに作るとしたら、どれくらいのコストがかかるのでしょうか」
私はフランク・フォンヒッペルさんにお聞きした。
「2兆円もあればできるはずです。しかも狭い場所でOKです」

それなら、各電力会社が積み立ててきた3兆円の原子力環境整備促進・資金管理センター    の再処理積立金がそのまま残っているではないか。
それを取り崩して、一刻も早く使用済燃料棒の乾式保管施設を作ることが先決である。
原発の再稼動を巡る議論の前に、やるべきことがある。
例年にない大雪の中、北陸、東北、北海道の原子力発電所では、使用済燃料棒たちは声も上げることができずにひっそりと待っている。