秋田は雪が深かった。
飛行機が飛ばないとのことで、朝早く、新幹線で講演に出かけた。
農業戸別所得補償という、新しい大胆な改革だけに、秋田のおばこ農協組合員1300人は真顔だ。真剣に聞き入って熱気がこもっている。
質問も鋭く、私もついつい時間をオーバーして話も1時間半に及んだ。
その夜、6時半に東京駅に帰着したが、そのまま車で渋谷CCレモンホールに送ってもらった。
「ゴスペルのキップが入手できたので、クリスマスキャロルのコンサート行くのだ」
羽石秘書官が、少し驚いた顔をしている。
予算、予算、会議、講演の連続で、こんな年末のいそがしい時期に私がコンサートに突然行くのは似つかわしくなかったに違いない。
読売新聞に「南アフリカよりゴスペルのルーツ初来日」との小さな記事を見て、なんとしてもあの魂の叫びゴスペルの本場もの(アメリカでも2年連続でグラミー賞をいただいている)を聞きたくなった。
良かった。
まさに全身を使っての激しい動き、魂を揺さぶるような腹のそこからの響き。太鼓の音もシンプルだが、また何かを叫んでいる。次第に魅いられながら、私は南アフリカ、アパルトヘイトの激しい弾圧のなか、ソウェト地区で生まれたゴスペルに、いろいろな思いが重なってきた。
マンデラの獄中での生活・・・・日本でも上映された映画「遠い夜明け」もソウェト地区の話だった。

私はコンサートからの帰り、ビデオショップに寄ってDVD「遠い夜明け」を借りてきた。20年ぶりに見た映画はさらに感動した。

主人公の、若いステーブビコ、黒人による黒人のための黒人の病院の建設に奔走し、黒人の文化と誇りを訴え続けたビコ・・・・・・無残にも獄中で拷問を受け殺された。
さらに、数多くの黒人活動家が獄中で殺されている。
ソウェト地区では、当時夫婦であっても一緒に生活できるのは年に1,2回しかなかった。虫けらのように扱われていたのだ。
差別撤廃を求める学生たちの激しいデモ、ところが激しい弾圧で、一時期に700人もの若い人達が無残にも機銃で殺されていく。
自由と公平を求めて、殺されても、さらに殺されても、湧き上がってくるように素手で戦う。
「神の改革を待つ時間は無い。今立ち上がらなければならない」
白人の新聞記者ドナルド・ウッズも叫ぶ。命がけで国外に亡命して真実を明らかにした。
ゴスペルに秘められた死を恐れずに立ち向かう祈り。・・・・・その叫び。