夜半、上五島の有川の港から、チャーターした瀬渡しの漁船で佐世保港に着いた。
真っ暗な夜の海は、時折横殴りの雨がたたきつけて、かなり時化ていた。
大きな波が来るたびに、腰から下がふわっと浮き上がって、次の瞬間ドスンと海面にたたきつけられる。
目を瞑る。
若いころと違って、身体にもこたえてきた。
明日の、「解散の本会議」に間に合うには、どうしても、夜のうちに大村まで帰って、朝、一番の飛行機に乗らなければならない。
・・・・このようなことを、これまでにも何回繰り返してきただろうか。
いよいよ、私にとっても衆議院5期目の政権交代をかけての挑戦だ。
そう思うと、身体が引き締まる。

翌、21日、午後1時、衆議院本会議場の予鈴、国会内に響き渡る。
本会議場へ急ぐ。
「お世話になりました」
「また勝ち抜いて頑張ってきましょう」
それぞれに、逢う人ごとに挨拶を重ねる。
今期で引退する岩国先生が、すでに私の隣の席に座っている。
病気で身体を壊された、金田誠一先生も前の席に座っておられる。
「ご苦労様でした・・・・・・」
「ありがとう」と笑顔で返してくれるが、心なしか寂しげである。

河村官房長官が紫の袱紗を事務総長に手渡す。
一呼吸おいて、河野洋平衆議院議長の太い声が議場内に響く。
「・・・憲法第7条により衆議院を解散する」
次の瞬間、「万歳—」「万歳」と両手を挙げて、議場は一斉に議員が立ち上がる。
場内は一瞬にして騒然と沸き立つ。
私ももろ手を挙げて一緒に「万歳」と叫んでいた。

この瞬間から、私は衆議院議員で無くなった。
そして、この中から、いつも3分の1の議員は戻って来ることは無い。
私は、議員会館の部屋に戻って、「議員バッジ」を上着から静かに外した。
いつに無く整頓された机の上に、バッジをそっと置いた。
「さー、これから40日間の長い、暑い闘いが始まる」こぶしを握る。
勝負。