福島原発の3月12日から16日にかけての事故について、東大のアイソトープ研究所所長の児玉龍彦教授は次のように語ってくれた。
「薄く広く100キロ四方100万平方キロの地帯に、少なくとも広島型の原爆10個分が飛び散ったのです。それだけ一帯が被爆したのです。
恐ろしいことです。
当然、これらの地域がチェルノブイリでは要警戒地区になるわけです。
これからヨウ素はすぐに半減期が来ますが、セシウムはそのまま地表に残ってどこかに雨風で偏っていくのです。
だから郡山で50万ベクレルの稲藁が出るなど各地でホットスポットが生じるのです。これから偏りがさらにひどくなっていきます」
聞いている私も緊張する。
「児玉先生、今回の水素爆発で避難区域を3キロから6キロ・・20キロと次第に広げていったが、その間にも外で遊んでいた幼児等は放射能に晒されていたわけで、ヨード剤も与えなかったが大丈夫でしょうか」
「私も心配しています。幼児は成長期にあるので、遺伝子が分化しています。そのようなときに遺伝子が傷つきやすいのです。チェルノブイリでも5年後くらいから甲状腺がんが多発しています」
「今、高濃度の放射能に汚染された稲藁を食べた牛がセシウム牛として問題になっています。すでに食べた人もいますが内部被爆は生じてはいないでしょうか。」
「食べた牛肉の量の問題はありますが、普通に2,3回食べたぐらいでは大丈夫でしょう。遺伝子が一個放射能で切れたとしても人間には修復機能があるので大丈夫ですが、2個目が切れると癌にかかりやすくなります」
「セシウムはしばらくすると体外に排泄されるので心配ありませんと言っている学者もいるようですが、本当に大丈夫でしょうか」
「そうではありません。日本の福島譲二博士のチェルノブリノでの研究論文では、セシウム汚染地域の膀胱には、高い線量でも中間的線量でも、増殖性の異型性の病変が起こっていることを発見しました。被爆地域の住民の膀胱の病理組織を緻密に分析すると、ほぼ全例からこのような増殖性の異型性変化が発見されたが、非汚染地区患者の膀胱にはみられなかったのです。ここでいう高線量区域、中線量区域を福島県に当てはめると、浪江町が高線量、飯舘村が高線量と中線量、福島市や南相馬市が中線量にあたるのです」

おりしも朝のテレビのワイドショウで生まれて間もない幼児が380ミリベクレルの被爆している映像が流されている。
恐ろしいことだ。
私は正直言って、放射能のうちヨウ素を被爆して甲状腺がんが発症することを心配していた。セシウムはすぐに体外に排泄されるもので、さほど心配は要らないだろうと安易に考えていたが、とんでもない話のようだ。
やはりセシウム牛を国民に食べさせてはならない。
消費者は敏感に感じ取っているのだろう。
現在、芝浦の屠場ではこれまで最低でもキロ当たり2100円はしていたA5の黒毛和牛がキロ600円でも売れない、値が付かない状態が続いている。
全国の生産者は青息吐息でこれから深刻な倒産の危機を迎えている。
大変なことになった。
今は何よりも国民に牛肉に対しての安全と安心を政治の責任で取り戻さなければならない。
BSEのときのように、厚生労働大臣は直ちに全頭検査して500ベクレル、安全基準値を超える牛肉は直ちに回収して廃棄処分にする。
放射能に汚染された稲藁を食べた牛、すでに出荷されたとされる牛3000頭についても農水省、政府がすべて買い上げる。
福島県、宮城県など出荷制限している地区の肉牛についても準ずる措置をとるべきである。
次に、豚肉でも価格が暴落したときには、畜産振興機構で買い上げて需給調整を図るように、今回の非常事態では緊急対策事業として調整保管にも踏み切るべきではないか。
ここで価格の安定を図ることが、結果として国の財政負担の軽減にもつながるものと考える。
財務も渋ることだろうがもともと国が原発を鳴り物入りで進めてきた責任がある。
稲藁の汚染について想定外だといって通る話ではない。
国の責任も免れない。
しかし第一次的には東京電力の責任であることは間違いない。
後日、それらの経費はすべて東京電力に求償請求すれば足りる。当面は国の予備費からの支出で賄うべきであろう。
全頭検査にも異論がある。
全頭検査にはゲルマニーム検出機が全国に29台しかなくて、1頭辺りの検査にも時間がかかるので物理的に不可能だという言い方をするがそうではない。
それよりも簡易なシンチレーション検出機が100台ほどはあって各県に1台から2台の配置は可能である。
今ではトレサビリティが完備しているので、福島など稲藁を使ったところから優先して配備すればいい。
もう一つ大事な話しがある。
現在児玉教授は、土・日曜日には毎週南相馬に出かけて、主婦の皆さん方と除染作業を熱心に続けている。
水などで洗い流すなどしているうちに、強い放射能の塊ができてくるが、そうなると素人の主婦の皆さんには触らせられなくなる。
児玉先生は自分でドラム缶に入れて東大まで運んできているそうだが、政治家は国会は一刻も早くこの除染作業の廃棄物をどこにどのようにして隔離するかを決めなければならない。
1RRCの専門家と一緒に除染のマニアルを早く確立して直ちに取り組むべきである。
除染作業にかかる予算をここで大胆に組まねばならない。
ベラルーシは25年が経過した現在でも国家予算の2割は除染作業につぎ込んでいる。
日本では除染作業はまだボランティアの段階で、本格的な専門家による組織的な動きは見られない。これからである。
なんとも急がれるのに政府の対応が後手後手に感じるのは私だけだろうか。