昨夜も風雨が窓を強く打ち付けていたが、今朝も雨雲が低く立ち込めて、遠く海が灰色に煙っている。数年前に見た映画「ピアノレッスン」でのニュージランドの海岸のシーンを思い出させる。

今日は対馬沖日露海戦101周年にあたる。私の親友武末泰雄君が対馬への郷土愛から昨年ロシアと日本の友好100周年を祝って大イベント企画して、海戦がなされた上対馬殿ガ岬に見事なレリーフ、東郷平八郎元帥がロジェンスキー提督を佐世保の海軍病院に見舞ったシーンを作り上げた。そしてロシアの大使を招いて沖合いで海上自衛隊の艦船から慰霊の献花をささげたのだ。

後で聞いた話だが彼だけでも1500万円は私財を投じている。いまどき、珍しいことに対馬にはこのような熱い男たちがごろごろしている。今年は、ロシアからバルチック艦隊のロジェンスキー提督の曾孫と東郷平八郎元帥の曾孫保坂宗子を対馬に招いて慰霊祭を行った。

私もロジェンスキーの曾孫さんと保坂宗子さんと朝食を囲んだ。ロジェンスキー提督の曾孫は鼻ひげのところから、額、目の深いくぼみまで写真での提督と驚くほど似ている。

保坂宗子さんも女性だが、鼻から目の辺りが炯々とした感じで東郷平八郎元帥の面影と瓜二つだ。不思議な気がした。一世紀の時を経て運命の対馬の地で二人の将軍の曾孫が私の目の前でにこやかに談笑しながら食事している。

「私もロジエンスキーさんと最初にお逢いしたとき、初めてとは思えませんでした。レリーフにあるシーンがずっと頭にあったのでしょうか。

互いに(ロジェンスキー提督と東郷平八郎元帥)人を大切にする気持ちが、そのまま未来を作ってくれる、そんな気がして嬉しいのです」

保坂宗子さんは淡々と私に語ってくれた。

私まで目頭が熱くなる感動を覚えた。

時折、強い風をともなう小雨の降りしきる中、粛々と日露の関係者の間での慰霊祭は執り行なわれた。