対馬、厳原の町。昨夜の風はすざまじかった。この季節になると日本海を隔てた大陸からの「白頭山おろし」の風は厳しい。一晩中ヒューヒューと時には激しく窓をたたくような唸り声を上げる。海は大時化だろうか。今朝はうそのように晴れ渡っている。紅葉のところどころの残った晩秋の山々の向こうに深い秋の海が横たわっている。澄み切った空気に深い海の青さがなんともいえない。高校時代に呼んだ西田幾太郎の『善の研究』に「秋の海」の色がすばらしいと書いてあったが、思い出す。思索の秋。静かに一人でいたい。それにしても世の中は何かと騒がしい。