詐欺師と詐欺師 | 山田屋古書店 幻想郷支店

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物語を必要とするのは不幸な人間だ

作者は川瀬七緒。

 

落ち着いた雰囲気のクラブ、そのカウンターで動画ニュースを見ているのは議員の松浦秀和だ。頭も容姿も良いが、見る人が見れば不誠実さと女癖の悪さが透けて見える。クラブの開店は2週間後に迫っている中、店には若いママと松浦しかいない。松浦がママを口説こうとしているとき、薄汚い格好の女性が店内に現れた。従業員募集の広告を見たという。22時でアポなしは常識外れだが、松浦が面白がって面接をすると言い出した。松浦が油断したその瞬間、女性はナイフを持って彼に突っ込む。揉み合いの末に松浦は難を逃れたが、女性の左胸にはナイフが刺さってしまった。全てを失うか、隠蔽か、ママは松浦に迫る。

 

詐欺師の伏見藍と復讐に燃える上条みちるが、みちるの仇の大企業を相手に大規模な詐欺を仕掛ける。あらすじに書いたのは冒頭の議員を相手にした詐欺で、藍が計画したもの。今まで小規模な悪事を積み重ねてきたみちるはこの詐欺で数千万円という大きな金を稼ぐことに成功した。

 

もともと伏見藍は欧米で詐欺師として稼いでいたやり手で、危険を感じて今は日本に避難している。偶然みちると出会い、松浦の件で組むことになったが、感情のままに突っ走るみちるとは相性が悪い。それでも藍はとある事情によりみちるとともに、彼女の仇の大企業に詐欺を仕掛けることにした。

 

上条みちるは件の大企業によって両親を死に追いやられ、復讐のためだけに生きてきた。今まで無事だったのが不思議なほど危険な行為に手を染めており、その金を復讐につぎ込んでいる。そのため藍の金遣いの荒さには嫌悪の目を向けるが、復讐の完遂のためには藍の力が必要と我慢している。

 

藍とみちるの生きてきた世界が違いすぎて、みちるが困惑するのが面白い。みちるは最低限の金で生活してきたため、金を使うことに嫌悪感があるが、大企業相手に詐欺を仕掛けるなら一流を知ることが必要、とみちるに様々な経験をさせる。みちるも根は生真面目なので、メモをとって勉強する可愛いところがある。


ストーリーとしては前述した通りなんだが、ラストが想像を超えてくる。藍は優秀な詐欺師としてすべてを見通しているようで、実は圧倒的な存在の手のひらの上で踊っているだけだった。最後は読者に委ねるパターンだが、せめてみちるには幸せになって欲しい。結構すごい一冊だった。


次はリチャード・レイモン。