地球移動作戦 | 山田屋古書店 幻想郷支店

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物語を必要とするのは不幸な人間だ

作者は山本弘。

 

探査船ファルケが発見した天体2075Aは秒速298キロで運動しており、24年後には太陽系に突入することが分かった。世界で初めて直接の観測が不可能なミラー天体の発見にブレイド船長らは歓喜するが、のちにとんでもない事実が判明する。地球の600倍の質量を持つその星は地球からたった40万キロの位置を通過するのだ。それによって地球を巨大な潮汐力が襲い、地震・津波・公転軌道のズレによって地球の環境は完全に破壊される。人類の破滅までたった24年、唯一の回避策は地球を2025Aの潮汐力が及ばない場所まで移動させることだった。

 

劉慈欣さんの「流浪地球」で特撮映画の妖星ゴラスを思い出し、それのオマージュ作品ということで読んでみた。妖星ゴラスは一時期流行った空想科学読本で散々な扱われ方をしており、山本さんはそれに反論する作品「ここが変だよ空想科学読本」も出している。

 

本作は妖星ゴラスをベースとしつつ、SF部分が補強されている、のだと思う。実は妖星ゴラスは件の空想科学読本でしか知らず、本作を読む前にwikiであらすじを調べた程度の知識しかなく、作者に敬意を表するのであれば妖星ゴラスを見てから読むべきだった、とちょっと後悔している。

 

基本的なストーリーとしては巨大な天体が地球に接近して、地球の環境をめちゃくちゃにするので、何とか地球を動かして危機を回避しよう、という単純なものだ。しかしそんな途方もない作戦が簡単に実行できるわけもない。本作の半分は作戦を開始するまでのあれこれにページを割いている。

 

ピアノドライブという無限のエネルギーを手に入れた人類は、飢えや貧困の追放、戦争の減少、不老長寿とまさに理想の世界を築きつつあった。そんな人類でも回避するのが困難なのが今回の事件だ。新興宗教や破滅論者の妨害を受けつつも、地球移動作戦は少しずつ進んでいく。

 

原作にはなかったAIの存在の描写が多く、これはSF色を強める要因になっている一方、活劇としてのテンポの良さを削いでいるようでもある。AIは人類の後継者になりえるのか、という作者オリジナル部分としては面白いかもしれないが、個人的にはちょっと冗長に感じた。

 

でもその分、後半は怒涛の展開が楽しく、前半の冗長さを相殺して読後には「全体としては面白かった」と感じられた。やはり災害小説大好きおじさんとしては地球が破壊される描写は面白い。ひとつ不満があるとすれば、興行の関係で映画に無理矢理追加されたアレがなかったこと。なんとか理屈つけて出して欲しかったな。


次は酉島伝法。