国歌を作った男 | 山田屋古書店 幻想郷支店

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物語を必要とするのは不幸な人間だ

作者は宮内悠介。

 

ジョン・アイヴァネンコは1978年、ニューヨークのイーストビレッジに生まれた。言葉は遅かったが数字に強く、紙を与えられれば延々と魔方陣を作る子供だった。彼が幼稚園の時にコンピューターが買い与えられ、のちに彼の代表作となるMMORPGの最初期作を作り上げる。ジョンはゲームに音楽をつけるために同級生から音楽を学び、それからゲームと音楽を作り続ける人生が始まった。特にその曲のひとつは後に国歌と呼ばれるほどの認知度を誇るようになる。彼は間違いなく成功者の一人だが、いわゆるアメリカの成功者とは全く違う人生を送った。そんな彼の一生はどのようなものだったのか。

 

宮内さんのノンジャンル短編集。あらすじは表題作の「国歌を作った男」より。実際に彼の作った曲が国歌になったわけではなく、ドラクエのオープニング曲が国歌と呼ばれるのと同じ意味だ。彼の作ったMMORPGは居場所のない人々の居場所となり、現実では成しえない偉業を成し遂げた。

 

「パニック 一九六五年のSNS」ではその当時にインターネットが存在した日本で起きた世界初の炎上事件を描く。その対象がベトナム戦争に従軍した開高健というのが面白い。理性を保っていたはずなのに、ネットに毒されて思考力を失う。現代と何も変わらない世界がそこにあった。

 

「死と割り算」は結末が意外なショートショートで個人的に一番良かった。あとは「ジャンク」では昔懐かしい闇市のような秋葉原が描かれ、おっさんとしては郷愁を感じた。駅前にバスケットコートとかあった時代が一番通っていた頃で、当時のカオスさが好きだっただけに、今の小ぎれいな秋葉原には違和感を覚えることもある。

 

次は中山七里。